お店で何を買おうとしているのか、どんな恋人を探しているのか、どんな自分になりたいのか…。膨大なデータから意味を引き出す“数学の達人”(the NUMERATI ニューメラティ)たちによって、私たち一人ひとりの行動はいまやすべてが先読みの対象となっている。企業、政府、教育機関などさまざまな分野に散らばっている数百人ものニューメラティたちへの取材をまとめ、あのクリス・アンダーソン氏も絶賛した話題の書『数字で世界を操る巨人たち』(武田ランダムハウスジャパン)の著者であるスティーブン・ベイカー氏に、知られざる応用数学の世界と私たちの生活へのインパクトを聞いた。
(聞き手/ジャーナリスト・大野和基)
―「the NUMERATI(ニューメラティ)」というタイトルはどうやって付けたのか。
ビジネスウィークのシニア・テクノロジー・エディターを経て、2009年11月からフリーのジャーナリストに。Blogspotting.netでブロガーとして活躍。ニューヨーク・タイムズ紙の「注目のブログ50」にも選ばれた。米国ニュージャージー州モントクレア在住
私がもともと付けたタイトルは「The Age of Numbers」(数字の時代)だった。データの研究が非常に重要性を増す、人間文明のいわば新しい段階に入ったと考えたからだ。しかし、担当編集者に、それではつまらないしシリアスすぎると言われた。もっとカラフルな言葉を探すことになって、行き着いたのがその「the NUMERATI(ニューメラティ)」というタイトルだ。
このニューメラティとは、我々のデータを操って、ある意味で我々の運命をコントロールしている人たちのことを指す。「ダヴィンチ・コード」の中に出てくる「The Illuminati(秘密結社)」という言葉にもヒントを得た。いうまでもないが、まずはタイトルに惹かれて手に取ってもらいたいというのが出版社の考えだ。
―著書を読んでいると、デジタル世界と接点を持っている人間は皆「0」と「1」に置き換えられてしまった気になる。まるでDNAの別バージョンみたいだ。
確かに、考え方は同じだ。実際のDNAとは違うが、いうなれば“行動上のDNA”だ。誰が好きで、何を買いたいのか、何になりたいのか、自分の時間をどのように過ごしたいのかといったことが、つまり自分に関する詳しい理解が行動上のDNAによって得られるようになるだろう。
もちろん現時点ではまだ人間一人ひとりを完全に理解しているビジネス・モデルはない。ただ、ビジネスは今後、ますますその方向に進む。もしある人に100万ドルの生命保険やロールスロイス、デオドラントやフロリダのグレープフルーツを売りたいと思うなら、その人についてわかっていたいと思うだろう。つまり、我々が買いそうであるかどうか知りたいと思うだろう。