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中国政府が過分な効果を期待する
「脱一人っ子政策」の落とし穴

ジャーナリスト・嶋矢志郎

嶋矢志郎 [ジャーナリスト]
2015年11月19日
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中国政府が続けてきた一人っ子政策を廃止して、産児制限の緩和へ踏み切った。しかし、「未富先老」が進む中国では遅きに失した観がある

 中国政府が1980年代に入る前夜の1979年以来、36年余にわたって続けてきた一人っ子政策を廃止して、産児制限の緩和へ踏み切った。一人っ子政策は、一昨年から「夫婦のいずれかが一人っ子であれば2人目を認める」など、緩和の方向へ向かっていたが、今回はすべての夫婦に例外なく第2子の出産を認め、一人っ子の奨励策も打ち切るという政策転換である。

 この「脱一人っ子政策」は、先月末に開かれた中国共産党の中央委員会第5回全体会議(5中全会)で、来年からの経済方針である第13次5ヵ年計画(16~20)の概要に盛り込まれたので、16年からの施行となる。中国の人口政策は根本的な問題点が積み残されたまま、なお課題が山積しているため、一歩前進とはいえ遅きに失した観は否めない。

 中国の人口政策が直面している最大の問題点は、国民が豊かになる前に高齢化を迎えている「未富先老」型の人口推移である。それに対して、日本を含めた欧米先進国の人口推移は、国民が豊かになってから高齢化を迎えた「先富後老」型だ。先進国は「先富後老」型で救われてきたが、「未富先老」の中国は先行きに大きな不安を抱えている。

 国営の新華社通信によると、今回の政策転換の狙いは「人口推移のバランスを取って、高齢化問題に取り組むため」としている。今回の政策転換が「未富先老」の構造改革を加速する成果に期待したいものだ。

これを機に完全廃止してはどうか?
国際社会では通用しない一人っ子政策

 それにしても、中国の一人っ子政策には、初めから問題点が多過ぎた。1つ目の問題点は、政策そのものが国を挙げて国民の自由とプライバシーに不当に介入し、基本的な人権を侵害している非民主的な制度であり、国際社会では通用しない価値観を強制的に押しつけ、義務化したことである。

 元来、出産は人間の自由な意思と営みに委ねられるべきで、政治や行政が干渉して制限することではない。当初は、食糧危機によって国民を飢餓から守る大義の名の下でやむを得ない救済策の面があったとはいえ、中絶の強制や違反者への罰金の課金など、深刻な人権侵害を国家権力が自らの手で犯してきた罪は重く、その責任は免れない。

 当初より国内外からの厳しい批判に晒されてきた中で、中国当局はいまだ聞く耳を持たないが、これを機に直ちに全面的に廃止、撤廃すべき愚策である。

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嶋矢志郎 [ジャーナリスト]

ジャーナリスト/学者/著述業。東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。日本経済新聞社(記者職)入社。論説委員兼論説副主幹を最後に、1994(平成6)年から大学教授に転じ、芝浦工業大学大学院工学マネジメント研究科教授などを歴任。この間に、学校法人桐朋学園理事兼評議員をはじめ、テレビのニュースキャスターやラジオのパーソナリティなどでも活躍。専門は、地球社会論、現代文明論、環境共生論、経営戦略論など。著書・論文多数。


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