通信業界における30年来の議論である「NTTの組織問題」。

 それが今、官僚を遠ざける政治主導の名の下に次々と予定が前倒しされ、肝心の中身を詰める作業がないがしろにされている。そのため、通信業界関係者のあいだでは、憤りの声が上がっている。

 政治主導という名のゴリ押しがいかんなく発揮されたケースが、「光の道構想」である。2015年までにすべての世帯で高速大容量のブロードバンド通信サービスを利用できるようにするというこの構想は、かねて総務省が掲げてきたもの。そして、原口一博・総務大臣が組織した「(有識者による)グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」は、5月中旬をメドに基本方針を出すことになっていた。

 構想の実現のためには、NTTグループから光回線を分離するかたちでの再編が必須とされてきたが、タスクフォースの作業部会は、結論ありきはよくないという意味で「再編の見送りやむなし」との現状認識を持っていた。

 だが、これがある新聞の見出しで「総務省、結論先送りへ」と書かれたことに激怒した原口大臣は、5月14日に開かれた公聴会の資料に「(来年の夏まで)1年後をメドに判断」と期限を明記した文言を入れるように注文をつけた。

 そして、翌週の17日にはNTTの宿敵であるソフトバンクの孫正義社長が「1年は長過ぎる。せめて半年で結論を出すべき」と発言。それを受けるかのように、18日に原口大臣に承認された中間報告書では、期限が「半年以内」(年内決着)に短縮されて次期通常国会に提出する法案になった。

 じつは、「光の道構想」の原型となったアイディアは、民主党が政権を取る前からソフトバンクが民主党に持ち込んでいた「光の国ジパング構想」である。4年間に4兆円の国費を投じて、光回線を全国に引けば経済対策にもなるとの案を、5本柱からなるマニフェストの6本目候補として売り込まれたのだが、実現しなかった。

 しかし、それを仕立て直したものが、現在の「光の道構想」に発展した。原口大臣の肝煎り政策の出元は、ソフトバンクなのだ。本当に計画どおりに進めば、NTTを弱体化させると同時に、ソフトバンクは新たなインフラ投資から免れるという巧妙な仕掛けが組み込まれている。

 もとより、原口大臣と孫社長の“近さ”に眉をひそめる作業部会のメンバーも少なくない。

ソフトバンク本社26階の約25%は孫社長が個人で借り切る迎賓館。「明治維新三志士の直筆の書」があるという

 たとえば、原口大臣は、NTTの三浦惺社長やKDDIの小野寺正社長との面会は断りながら、孫社長とだけ私的な勉強会を続けている。また、両者は“ツイッター仲間”として知られるが、日本ではソフトバンク本社26階の迎賓館にしかないとされる「明治維新三志士の直筆の書」を見た原口大臣が、その持ち主を“親友”と呼ぶツイート(写真参照)が、関係者のあいだでは話題になっている。

 2人は高い志に燃え、新しい日本の建設に立ち上がった心境なのかもしれないが、まがりなりにも、監督官庁と事業者の立場だ。両者があまりにも近い状態が続くと、結果的に国の通信政策の舵取りを誤るのではないかという懸念が拭い切れない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

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