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シフト 2035年の未来
【第2回】 2015年11月20日
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マシュー・バロウズ,藤原朝子 [学習院女子大学]

民主主義の徹底は世界を混沌に陥れるのか

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大統領の指針ともなる最高情報機関・米国国家会議(NIC)。CIA、国防総省、国土安全保障省――米国16の情報機関のデータを統括するNICトップ分析官が辞任後、初めて著した全米話題作『シフト 2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』が11月19日に発売された。在任中には明かせなかった政治・経済・軍事・テクノロジーなど多岐に渡る分析のなかから本連載では、そのエッセンスを紹介する。

第2回のテーマは「個人」のエンパワメントだ。世界中の誰もがしかるべき権利を与えられ、自分の能力を最大限に発揮できるようになることは「民主主義」の夢といえるはずだ。しかし、それが現実化しつつある21世紀への評価は実際に分かれている。

民主主義という「悪夢」?

個人のエンパワメント(自ら物事を決定し、その力を活用すること)は最高にすばらしいことだと、私は信じている。当然だろう。人種や国籍や性別と関係なく、誰もが自分の潜在能力をフルに発揮するチャンスを得るのだから。それは民主主義の夢ではなかったか。私たちの親や祖父母やもっと上の世代が、手に入れようと奮闘してきたものではなかったか。それを喜ぶべきでない理由などあるはずがない。

誰もが個人のエンパワメントを歓迎しているわけではないと、私が初めて知ったのは、『グローバル・トレンド』を執筆するために、世界各地を訪問していたときだ。

ケニアの会議出席者はこう語った。「個人のエンパワメントは大きな危険をはらんでいる。民族ごとの集まりが政治的に利用されて、紛争の種になるおそれもある。アンチ市場、アンチ社会保障、アンチ政府を唱える大衆迎合主義が高まっている」。さらにこの人物は最大の懸念を口にした。「ケニアが20〜30年後も統一国家でいられるという確信が私にはない」。個人のエンパワメントによって国の一体性が失われつつあるからだ。

ブラジルでは、閣僚経験のある政治家が、個人のエンパワメントをあざ笑った。「アイデンティティ政治(社会的に不公平に扱われている集団が承認を得るために行う政治運動)は分裂をもたらすだけで、価値観の収斂にはつながらない。アイデンティティ政治は、他人との共通点ではなく、違いを強調するからだ」。さらに彼は言った。「私に言わせれば、この世界はホッブズ的であって、カント的ではない

トマス・ホッブズは17世紀のイギリスの哲学者で、国家のあり方を論じた政治哲学書『リバイアサン』で、対立や内戦を防ぐには強力な中央政府が必要だと主張した。他方、イマヌエル・カントはホッブズの100年後に活躍したドイツの哲学者で、人間は外的権威から解放されて自律的に考えなくてはいけないと唱えた。

カントはフランス革命とアメリカ独立戦争、そしてイギリスに対して自治拡大を求めるアイルランドの闘争を熱狂的に支持した。ただしカントは、非常に規則正しい生活を送ったことで知られ、フランス革命の火蓋を切ったパリのバスティーユ監獄襲撃の知らせを聞いたときも、日課の散歩を短く切り上げただけだったとされる。カントは著書『永遠平和のために』で、国家が法に基づき統治されているかぎり、戦争に疲弊したヨーロッパにも平和を築くことができると主張した

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米国の最高情報機関であるNIC(国家情報会議)の元分析・報告部部長。直近の2号である『グローバルトレンド』(2025/2030)で主筆を担当。ウェズリアン大学(学士号)とケンブリッジ大学(博士号)で歴史学を学ぶ。1986年にCIA入局。2003年にNICに加わる。28年に渡って国家情報アナリストとして活躍。リチャード・ホルブルック国連大使の情報顧問を務めたこともある。2013年に辞任し、現在は「アトランティック・カウンシル」戦略フォーサイト・イニシアチブ部長を務める。ワシントン在住。

 

藤原朝子[学習院女子大学]

 

学習院女子大学非常勤講師。フォーリン・アフェアーズ日本語版、ロイター通信などで翻訳を担当。訳書に『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』(ダイヤモンド社)、『ハーバードビジネススクールが教えてくれたこと、教えてくれなかったこと』(CCCメディアハウス)、『未来のイノベーターはどう育つのか ―― 子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの』(英治出版)など。

 


シフト 2035年の未来

大統領をも動かす米国最高情報機関NIC元トップ分析官が、「2035年」の未来を徹底予測! CIA、国防総省、国土安全保障省……米国16の情報機関を統括し、未来予測・分析を行う諮問機関が、国家情報会議(NIC)です。政治・経済・軍事・テクノロジー、あらゆる領域からNICトップ分析官が在任中には明かせなかった不都合な「シフト」を分析します。

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