ロジカルシンキングは、ビジネススキルとして不可欠です。しかし、それだけでは解決できない場面にぶち当たった経験はありませんか。ビジネスには、ロジカルシンキングで解決できない課題が確かに存在します。そうした課題をどう見極めて、どのように解決に当たればよいのか。130社、1万3000人に意思決定の技法を授けてきたディシジョン・アドバイザーの籠屋邦夫さんに聞きました。
ロジカルシンキングには限界がある
みなさんの周りに、ビジネスに関連する問題や課題は山積していると思います。
1978年東京大学大学院化学工学科修了、84年スタンフォード大学大学院エンジニアリング・エコノミック・システムズ学科修了。スタンフォード大学にてロナルド・A・ハワード教授より意思決定理論の手ほどきを受ける。三菱化学を経てマッキンゼー東京事務所にて、エンゲージメント・マネジャー/ディレクター・オブ・リサーチとして企業ビジョンの策定・全社組織改革などのコンサルティングに携わる。90年渡米し、ハワード教授らが創立したストラテジック・ディシジョンズ・グループ(SDG)に参画。SDGにてパートナー/日本企業グループ代表。2000年に帰国し、A.T.カーニーでヴァイスプレジデントとして経営課題に対するコンサルティングに取り組む。現在は、企業やビジネスパーソンの戦略スキルや意思決定力向上を支援するエデュサルティング活動に力を入れている。著書に『意思決定の理論と技法』(ダイヤモンド社)、『スタンフォード・マッキンゼーで学んできた 熟断思考』(クロスメディア・パブリッシング)など。
解決するにあたって、SWOT分析や3C分析といったロジカルシンキングのフレームワークは大変有効です。様々なフレームで情報を集めて、仮説をつくり、さらに情報を集めて、検証する…。混沌とした考えを整理する道具として非常に便利だし、思考のヌケをつぶすときに役にたちます。
この方法で解決策が出てくるのは、これがベストだ!とか、理想だ!という“あるべき姿”があって、それと現状との間にギャップがある「問題」の場合でしょう。
たとえば、ある事業部門の赤字を黒字化するとか、あるサービスへのクレーム急増に対してサービス内容やクレーム対応体制を見直すといった場合です。どれも、解決方法が複数考えられるとしても、割とストレートに皆の納得がえられるかたちで正解が見つかります。
一方、ロジカルシンキングで検討してみても、解決策が見えないときがありませんか。それは、みなが共有できる唯一解としての“あるべき姿”がなく、選択肢や不確実要因、価値判断尺度で悩むような「課題」の場合です。
あるべき姿といっても、抽象的なレベルでよければ周囲の理解も得られます。たとえば、中期目標として「時代の変化を先取りし、顧客を満足させ、競合に継続的に打ち勝つようなスキルを持って、事業を成長させましょう」…どうですか。むろん、漠とした方向性に反論の余地はありません。しかし、それを検証可能なかたちで具体化していくとなると途端に混迷するはずです。
こうした課題については、いくつか考えられる解の中から、自分が“こうありたい”と思う理想の姿を選びだして、実現するための具体策を講じることになります。
たとえば出版社の未来について考えてみましょう。雑誌や書籍の販売減やインターネットの台頭により苦しむなか、今後成長していくには、どのような事業体を目指せばよいのでしょう。“なりたい姿”と得意分野は出版社によってさまざまですから、当然にして講談社と文藝春秋とダイヤモンド社では“解”が異なるはずです。そこには「こうなりたい」という各社の意思、パッションが強く反映されるはずだからです。前段としてロジカルシンキングによる現状認識や世の中のトレンド分析は不可欠であり、その時点で各社の見方に大きな差はでないでしょうが、それだけで解は導き出されないのです。
単にロジカルシンキングを使いこなせていない場合も散見されますが、ロジカルシンキングにこうした「限界」があることも知っておくべきでしょう。