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勝手に選別される世界
【第3回】 2015年12月16日
著者・コラム紹介バックナンバー
マイケル・ファーティック,デビッド・トンプソン,中里京子

Gmail「アーカイブ」ボタンから考える
「評判を永遠に消せない社会」

まさか、技術革新が不断に繰り返された結果、「評判が永遠に消せない社会」がくるとは――。世界初のレピュテーション・マネジメント会社創業者とオンラインプライバシーに精通した弁護士が語りつくした『勝手に選別される世界』。本書を翻訳した中里京子氏とともに、評判が永遠に「アーカイブ」されてしまう社会誕生の背景を探った。(構成:編集部 廣畑達也)

『勝手に選別される世界』で最も印象に残っているのはどこか――。同書を翻訳した中里京子氏にそう尋ねると、次のように語ってくれた。

 何と言っても、データ保管費用がほぼタダになってしまったということです(第2章)。私が最初に手にしたパソコンは、秋葉原の中古専門店で買ったNECの9801マシン。巨大な本体、8インチのフロッピーディスクドライブ、白黒モニター、ミシン目の入った連続紙専用のプリンター、しめて100万円を超えました。それが現在は、学術図書館の蔵書量の半分が納められるという1テラバイトの外付けハードディスクの最安値は5980円です。ただ、こうした技術革新が、データの無期限保存につながり、「評判が永遠に消せない世界」をもたらすことになるとは――当時は予想だにしませんでした。(中里京子氏)

 保存できるデータの容量が増え、一方その価格は下がる。一見よいこと尽くめのようにも思える「技術革新」が「評判が永遠に消せない世界」につながるとはどういうことだろうか?

 ファーティックとトンプソンの2人は、この点について、極めて明快に述べている。

 データ・ストレージ価格の急落が真に意味するのは――そしてさらにショッキングなのは――今やデータは、丸ごと保存したほうが、削除するより安くつくようになったということだ。データの削除には、ビジネス上のタフな判断が必要になる。そのデータが後で必要になったらどうする? そのデータが価値のあるものだったらどうなる? うっかり処理中の注文を削除してしまったらどうすべき?(『勝手に選別される世界』50ページ)

 たとえば、あるデータ・ストレージの中から特定の1つを選び出して削除するのに、時給100ドルのプログラマーを10時間雇う、つまり1000ドルかかるとしよう。

 しかし今日、自らストレージを用意するというソリューションを維持している企業は、1000ドル払えば、20テラバイト以上のハード・ドライブ・スペースを恒久的に手にできる。(中略)。だとすれば、追加の記憶装置を買ったほうがずっと安くすむのに、わざわざデータを削除しようとする企業などあるだろうか?(同52ページ)

 Gmailを使っている人なら、すぐに自分のこととして置き換えることができるだろう。日毎増えていくストレージの容量を前に、わざわざ一通ずつ残すべきか吟味する、という人はいないのではないだろうか。もし受信トレイから取り除きたい場合も、「アーカイブ」ボタンがその心理的な負担を軽くしてくれる――もちろん、あなたの個人的なEメールが、無期限に保管されるのと引き換えだが。

デジタル・ストレージの革命がもたらすもっとも明白な結果は、評判についたシミがずっと残りつづけることだ。たった一度の過ちでさえ、それがデジタル領域で起きれば、永遠について回ることになる――それに、今やデジタル領域で「起きないこと」なんてあるだろうか?
 調子がひどく悪かった日に、たまたま客をどなった動画が、ユーチューブに投稿されてしまったとしたら? 自分の店のレビューを自分で書いたのがバレてしまったとしたら? そしてご主人の出張中によその誰かと、ろうそくの灯るロマンチックなディナーを楽しんでいるところを、グーグルグラスをかけた詮索好きな近所の住人に見つかり、その写真がフェイスブックに投稿されてしまったとしたら?
 もっと悪いのは、そうしたデータの持久力がとても強いせいで、自分が犯したものではない過ちによってデジタル・レピュテーションが損なわれることもよくあるという事実だ!(同58-59ページ)

 かくしてデジタルデータに残されたあなたの評判は、永遠に消せなくなるのだ。

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デビッド・トンプソン 

レピュテーション・ドットコム社の初代法律顧問かつ個人情報保護管理責任者。イェール大学およびスタンフォード大学法科大学院卒業後、連邦最高裁判所判事アントニン・スカリアの助手を務めた。現在は弁護士および企業重役として活躍。プライバシーについての講演やメディア露出も多い。

中里京子(なかざと・きょうこ)

翻訳家。1955年、東京生まれ。早稲田大学教育学部社会科卒業。20年以上実務翻訳に携わった後、出版翻訳の世界に。訳書に『依存症ビジネス』『勝手に選別される世界』(ともにダイヤモンド社)、『ハチはなぜ大量死したのか』(文藝春秋)、『不死細胞ヒーラ』(講談社)、『個人インフルエンサーの影響力』(日本経済新聞出版社)、『食べられないために』(みすず書房)など。


勝手に選別される世界

ソーシャルメディア、ビッグデータ、クラウド、シェアリングエコノミー……
次々と勃興する新たなテクノロジーとサービスがもたらす、日常生活のすべてが点数化され、「評判(レピュテーション)」としてデータ化される世界。

「誰にでもチャンスがある」と言えば聞こえはいいが、無自覚なままでは知らぬ間に格差の底辺に落ち込んでしまいかねない。
たとえば……

・グーグル検索の何気ない1クリックのせいで「信頼性スコア」が下落し、保険料が跳ね上がる
・ツイッターの「つぶやき」の内容で判断され、適切なサービスが受けられない
・フェイスブックでつながっている「友だち」まで測られて、融資条件が悪化する

このようなことも冗談ではなく、「すぐそこにある現実」なのだ。

もはや「知らない」ではすまされない、「レピュテーション経済」で私たちの仕事、財産、人間関係はどう変わるのか、そして、どうすれば自らの身を守り、利益を手にすることができるのかを、この度『勝手に選別される世界』を刊行した世界初のレピュテーション・マネジメント会社創業者とオンラインプライバシーに精通した弁護士が語りつくす。

「勝手に選別される世界」

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