フラットな組織でモチベーションの高い社員が担う星野リゾートの施設運営。その基本的な発想の原点には、星野代表がファミリービジネスならでは経営の難しさに直面し、それを乗り越えた経験があるという。星野リゾートを継承した当時の葛藤、今の経営スタイルにたどりついた背景を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長 田上雄司)
「勝つためにどうするか」を考え続けたアイスホッケーの10年
――履歴を拝見すると、ずっとアイスホッケーをやっていらしたのですね。
星野 小学生の時はスピードスケートでしたが、中学生になった夏に、カナダでのアイスホッケーキャンプでプロ選手の指導を受けて感激し、転向しました。以来、大学を卒業するまでの10年間はアイスホッケー一筋です。
――その経験が、今の星野さんにどんな影響を与えていると思われますか。
星野 とにかく、「勝つためにはどうしたらよいか」を考え続けた10年間でした。改めて振り返ると、やはり「フラットさ」というキーワードが浮かびます。
チーム戦だからチームで勝たないといけない。しかし大学では、レギュラーの中心である3~4年生が一番練習をしないのです。今回のラグビーのワールドカップを見ても分かるように、弱いチームだからこそ圧倒的な練習量が必要です。レギュラー選手ならば一番練習しなければならない。レギュラーが練習するのは今年を勝ち抜くためであり、一方、来年、再来年を考えれば1~2年生も一生懸命練習しなければ勝ち続けられない。
主将で4年生になったときに、2部リーグで優勝でき、入れ替え戦にも勝って1部昇格を果たせました。結局、学年やポジションに関係なく皆が努力しなければ勝てないのです。
――まさに星野リゾートの組織論の原点。
星野 それはあるかもしれません。もう一つ、経営書を読み始めたときに、「ビジネスとスポーツは一緒だな」と思いました。例えばケン・ブランチャードは、『1分間』シリーズで、人が本来的にそなえている知識や意欲を引き出すことの大切さを語っています。スポーツも、1年生だろうが4年生だろうが、その現場で状況を見て判断し、行動しなければならない。接客の場面とよく似ているのです。
――大学を卒業した後にコーネル大学大学院で観光学を学ばれた。ここではやはり鍛えられましたか。
星野 入るよりも出るのが難しい。学期ごとに成績下位の人たちは退学していきましたからサバイバルゲームです。ただ大学院に行って良かったのは、英語の力が付いたのと、世界の人たちの日本への期待を肌で学べたことです。
授業では、毎週リポートの提出があります。教授たちは、不必要な修飾語を異様に嫌うので無駄を省き、一節一節が何のために書かれているのかが分かるような明確な論理が求められます。当然、引き締まった英語になり、そのせいなのか日本語の文章力も自然に上がっていたのに気がつかされました。
――「日本への期待」とは、どんなことですか。
星野 それを肌で学んだのは1年生のときです。1学期が終わると世界中からOB・OGが集まり、1年生が接遇役を務めます。それまではTシャツにジーンズだった友人たちが、お国の民族衣装を着て迎える。しかし僕はスーツだった。そうしたら「ヨシ、お前はなぜイギリス人の格好をしているのだ」と言われました。なかには、「日本人は西洋文化に憧れているからダメなんだ」と言う友人もいた。
彼らは、「日本を尊敬しているからこそ期待しているのだ」と言うのです。長い歴史と独特の文化を持つ日本。だから彼らにとっては「日本的」であるとは素晴らしさそのものなのです。それでいえば、日本文化を象徴する着物を着て行ったら褒められたかもしれない。スーツを着ている私にはダサささえ感じる。
真似事が本物にならない世界というのを思い知らされました。その経験があったので、外国からのお客さまが東京に来て「西洋ホテルしかないのか」と失望する気持ちが、すごくよく分かるのです。
――「星のや東京」への挑戦の始まりですね。
星野 軽井沢の実家(星野温泉)を継ぐときに、外国にあるのと同じようなホテルにしたら同窓生から馬鹿にされると分かっていました。日本文化を背負った、旅館を格好良くしていく以外に方法がない。格好悪いから西洋ホテルを志向するのではなく、格好悪いならば格好良くする。これしか彼らに「さすがだ!」と言わせる方法は見当たらなかったのです。