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IT投資の効果が実感できない本当の理由
成長か継続か―中堅企業のIT経営学(4)

上村孝樹 [ジャーナリスト/コンサルタント]
2010年6月14日
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 非成長経済の時代において、ITの活用が既存事業を再構築するうえで有効だと、前3回の連載で述べた。しかし、「IT投資の効果が実感できない」という声をよく聞く。

 かつてのIT投資は効果がわかりやすかった。ITによる製造コストの削減、業務のスピードアップ、サービス品質の向上など、ITを導入すること自体が差異化につながったために、効果も実感しやすかったのである。しかし、そうしたIT活用は一段落し、次のステージに進むことが求められている。それだけに効果が実感しにくくなっていることは確かだ。

 言うまでもなく、中堅企業にとってITは差異化を実現する手段として不可欠な武器である。SaaSのような共通化されたサービスを活用して、ITコストを削減することは必要だが、それだけでは差異化にならない。大事なのはどの段階、プロセスを差異化していくのかという点だ。この点の見極めがなければ、IT投資の効果が実感できないとしても当然のことと言えよう。

 業務プロセスそのものに独自のノウハウが組み込み差異化ポイントにする戦略ならば、その部分は独自システム開発を選択することを第一に考慮すべきだ。また、受注から製造、物流、販売といった業務プロセスを統合することによって生み出す差異化もあるだろう。

 要は、企業としてどの部分に付加価値を見出し、その価値をどの顧客にどう伝えていくかという経営戦略によって、差異化ポイントは変わってくる。ITを導入する際に、そうした目標設定を明確化し、導入後に、同じ視点から効果を測定・検証しているだろうか。業務システム導入後の検証を怠っているために、IT投資の効果が判然としないケースが意外に多いのではないか。

 もう一つが業務システムで蓄積されるデータの活用だ。ITリソースのコストが下がり、今まで以上にローコストでデータを集めることができるようになっている。だが、集めたデータが有効に活用されているかというと、疑問が残る。システムがリアルタイムに詳細な生データを集める機能が備わっていても、その生データをアバウトに分析するだけで終わっているのでは、効果は実感できないし、本格的な対策の立案にはつながりにくい。

 たとえば納期。平均値を見て満足できるものであっても、個々の顧客の要求を満たしているかどうかはわからない。納期の分布がどうなっているのか、どんなケースで遅れが出ているのか、その影響を受けている顧客との取引状況はどう変化しているのか。詳細に1件ごとの取引を検証することで、初めて業務プロセスの問題点が見えてくる。

 詳細にデータを分析して、個々の問題点が見えてくれば、具体的な実のある対策を講じることができる。さらにその対策を実施し効果を検証することで、業務は進化し業績も向上していく。ITによってリアルタイムにデータをウォッチできる仕組みがあれば、すぐにでも実行できるはずだ。

 非成長経済の時代では、アバウトに平均値で考えていても、実際の業績向上には結びつかない。ITを活用して一つひとつの業務の動きをとらえる仕組みを作り、個別に仮説検証を繰り返し、顧客との関係を継続的に改善していくことで、ITの本当の効果が実感できるようになるだろう。これが非成長経済の時代におけるIT投資の効果を生み出す基本的な考え方だ。従来の20世紀型の考え方を捨てて、新たな発想が求められているのだ。

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上村孝樹 [ジャーナリスト/コンサルタント]

「日経情報ストラテジー」「日経アドバンテージ」(ともに日経BP社)などの編集長を経て2005年に独立してフリーに。経済産業省IT経営応援隊「IT経営百選」選考委員会委員長などを歴任。事業創造大学院大学の客員教授も務める。


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