「成長」一本やりだった首相の発言が微妙に変わってきているのをご存じだろうか。最近の演説に「分配」が登場する。4日の年頭会見でも「成長と分配の好循環という新しい経済モデルに挑戦していかなければならない」と語った。
アベノミクスはトリクルダウンの経済ではなかったか。ピラミッドの頂点にいる大企業が儲かれば、富はおのずと底辺にまで滴り落ちる。企業を利すれば賃金や設備投資が刺激され、好循環が起きる、という理屈だった。
トリクルダウンが起きていないことは、誰の目にも明らか。しびれを切らした首相は、財界に「賃上げしろ」「設備投資を増やせ」と言うようになった。利益を溜めこむな、吐き出せ、というわけだ。首相の言う「分配」とはこれなのか?
「政府が企業経営に口出しするのはいかがなものか」という冷ややかな視線を浴びながら、「携帯電話の通信料金が高すぎる」と業界を叱ったり、経団連・連合を交えた政労資協議会で経営側に春闘ベアや設備投資の積み増しを要請するなど、介入姿勢を鮮明にしている。
「正しい者の味方」を演ずる啓蒙的君主にも見えるが、権力者である首相のこうした振る舞いは、思うように政策が進まない「焦り」の現れではないか。
政府と財界はじゃれ合うばかり
経済の好循環は期待外れに
小泉政権を継承したころから、安倍政権には新自由主義の流れをくむ「小さな政府」の色彩が濃かった。金融緩和によって成長を促すアベノミクスも、市場機能による好循環を目指すものだ。年間80兆円もの日銀マネーを市場にぶち込めば、インフレ期待が起き、経済は熱を帯びるはずだった。
残念ながら、物価も成長も上昇期待を裏切った。なぜか。賃金が上がらないから個人消費が振るわない。設備投資が湿ったままで波及効果が起きない。
安倍政権が期待した好循環は起きていない。財界にベアや投資を要請せざるをえないのは経済運営の見込み違いを現わしている。
儲かっている企業の納税を軽くしてやったのだから、人件費を上げるぐらいのことをしろ、というのが政府の言い分だろう。
そう言われても財界は面食らうばかりだ。経団連の役員はこう言う。