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上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

慰安婦少女像の撤去問題に日本は「戦略的静観」を

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]
【第123回】 2016年1月19日
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 昨年末に、日本・韓国両国は従軍慰安婦問題の決着で合意した。韓国が求めてきた「被害の賠償」について、日本が法的責任を認めなかった一方で、旧日本軍の関与の下、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題について、「日本は責任を痛感している」という表現で折り合った。また、安倍晋三首相が、すべての元慰安婦の女性に対して「心からおわびと反省の気持ち」を表明することになった。

慰安婦問題で日韓は歴史的合意を果たしたが、日本大使館前に設置された「少女像」の撤去をめぐり両国の世論は揺れている Photo:YONHAP NEWS/AFLO

 韓国は、元慰安婦の名誉の回復などの事業を行う財団を設立し、日本政府の予算で10億円を拠出することで合意した。ソウルの日本大使館前に設置された「少女像」については、韓国が「可能な対応方向について関連団体と話し合いを行い、適切なかたちで解決するよう努力する」とした。両国は、合意内容が「最終的かつ不可逆的に解決される」ことを確認し、国際社会で互いの非難・批判を控えることとした。

 当初、今回の合意は、日韓両国の世論に好意的に受け止められていた。しかし、「少女像の移転が、韓国が新設する財団への日本の約10億円拠出の前提」と日本のメディアが報道したことで、韓国で反発が広がり始めた。韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)、大学生、元慰安婦の親族らが日本大使館前でデモを行い、少女像を「世界各地に拡散する」と宣言した。朴槿恵大統領は、日本との合意と韓国世論の間で板挟みになった。

 今回は、「少女像」について、日本は撤去を要求することはせず静観し、元慰安婦など韓国側が希望するようにさせればいいと論じたい。

日中韓のナショナリズムの
ぶつけ合いは「必要悪」である

 この連載では、日中韓の「ナショナリズムのぶつけ合い」を論じたことがある(第75回)。安倍首相にとって、近隣諸国と揉めている状況は、実は好都合なことである。集団的自衛権の憲法解釈変更、安保法制を実現し、憲法改正という悲願に突き進みたい首相には、国民が近隣諸国との関係悪化に危機感を持っていたほうが好都合だ。

 一方の中国・韓国も、実は日本と揉めているほうが、都合がいいように思える。両国とも、国内にさまざまな問題を抱えている。国民が抱える不満を政府から逸らすためには、それが日本へ向かうように「反日ナショナリズム」を煽ったほうがいいからだ。

 一般的に、ナショナリズムは国家間の関係を悪化させる要因だと考えられている。だが、この連載では、ナショナリズムが国家間の紛争回避のための「必要悪」だと主張した。日中韓が揉めて、ナショナリズムをぶつけ合っている状況下では、1つの国が外交方針を融和に転じると、かえって紛争の危機を高めることになりかねないからだ。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


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国際関係、国内政治で起きているさまざまな出来事を、通説に捉われず批判的思考を持ち、人間の合理的行動や、その背景の歴史、文化、構造、慣習などさまざまな枠組を使い分析する。

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