東芝不正会計問題を受けて、金融庁の処分を受けた新日本監査法人。理事長の退任で問題の収束を図ろうとしたものの、それでは混乱が収まらず、ついに最高経営幹部が総退陣することが決まった。(「週刊ダイヤモンド」編集部 小島健志)
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その判断は遅きに失した──。監査法人最大手の新日本監査法人において、現職の最高経営幹部が総退陣することが、本誌の取材で分かった。
今年1月末での退任を明らかにした英(はなぶさ)公一理事長に加えて、新たに副理事長2人、専務理事3人の計5人が退任することとなった。
いずれも代表社員と呼ばれて経営の中枢にいたが、社内の混乱と社外からの批判を収めることができなくなったのが主な要因だ。
1月9日号で既に報じたように当初、英理事長の側近として次期理事長の筆頭候補と目されていた、監査現場トップの大木一也経営専務理事や、出世が確実視されていた品質管理トップの持永勇一専務理事の両専務も、退任する運びとなった。
今後は1月下旬に新理事長を決定し、3月までに開かれる総会を経て、新たな経営陣で再スタートを切ることとなりそうだ。
そもそも、新日本は東芝の不正会計を見抜けなかったとして、2015年12月22日に金融庁から新規業務の3カ月間停止処分と業務改善命令を受けた。さらに東芝から得ていた監査報酬の2年分に当たる、21億円の課徴金納付を命じられていた。
これに対して、新日本は英理事長の退任と、東芝担当常務理事の退社を発表した。さらに、副理事長を含む経営陣19人が報酬の自主返納を行うことなどで、この問題に終止符を打とうとした。
だが、総退陣が示すのは、それでは済まなかったということだ。
真っ先に動いたのは顧客だった。実は、複数の金融機関が今回の処分を機に、“新日本切り”に向けて動いていることが、本誌の取材で判明した。
長年、新日本の監査を受けてきたある金融機関幹部は「複数の監査法人の提案書を競い合わせるコンペを行っている」と打ち明ける。
処分を受けたタイミングで新日本をふるいにかけることで、自社の監査には問題がないことを株主らに強調できるわけだ。
現在、業界内では「監査難民が出るかもしれない」と叫ばれるほど、他の大手監査法人も人員が逼迫しており、受け皿が十分にない。それを察知した大手企業は早々に動いているのだ。