英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は新政権の「新成長戦略」についてです。菅直人首相が財政再建を政権の中心に据えたことは、日本の巨額赤字をかねてから懸念してきた英語メディアに概ね好意的に受け止められました。イギリスの経済紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』は「日本のピカピカな『新金融立国』」という表現でいささか茶化し気味ですが。米『ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)』は特に茶化しもせず、法人実効税率引き下げの部分にWSJらしく反応しています。(gooニュース 加藤祐子)

やっぱり大事なのは経済だ

 WSJは21日付論説記事で、菅新政権が18日に発表した「新成長戦略」について、「ギリシャの財政危機は、菅直人新首相に対する警告となった。日本は財政を何とかしないと、同じような問題が起きるぞと気づかされたのだ。(新成長戦略は)強い経済こそが国の最優先課題だと強調している」と指摘しています。

 FTのミュア・ディッキー東京支局長も、「日本は借金を選挙課題の中心に据える」という17日付記事で、民主党が「財政再建を最新の選挙マニフェストの目玉とし」、菅首相が「5%の消費税率を倍にする可能性を示唆」したと説明。この動きはつまり「財政赤字の抑制こそ政府の最優先課題」だという新首相の「決意のほどを裏打ちするもの」で、おかげで「民主党の新政権は経済界の中にも友人を獲得しつつある」と解説しています。

 つまりは、先週のこのコラムで触れた「It's the Economy, Stupid(要は経済なんだよ、バカモノ)」ではありませんが、「大事なのは経済だ、分かってます (It is the economy, we know)」と新政権がはっきり示したことに、経済界も(そして経済新聞各紙も)ホッと胸をなでおろしているという評価でしょうか。

 何せFTは、この数日前には日本政府(主に財務省)の痛々しいまでの「必死ぶり」を社説でからかっていたのですから。何かというと、財務省が通勤フリーペーパー『R25』誌に出した「国債を持てる男子は女性にモテル」広告についてです。

 FTはこれをやり玉に挙げて(国債=government bondは、名前はボンドかもしれないが、まさか国債のセックスアピールを売り文句にするとは――と)記事にして、さらに社説でも取り上げる始末。社説は要約すると、国債を持てば女性に持てるという言い分は実に驚きで「いささか必死(a bit desperate)」に聞こえるが、そのくらいのことを言わなければ売りようもない低い利回りなのだから仕方がないだろうと。ただし国債を買わない日本男子も、どうせ日本国民全体で大量の国債をもっているのだから、国債をもたなくてもモテルかどうかそう心配することはない、むしろ日本国民が大量の自国債をもっているというのは口説き文句にはならないのだし――というような調子でした。

 国債の「セックスアピール」を強調して売ろうとするよりは、「新成長戦略」はまともだと評価したのか、FTは中でも市場の統合に注目しました。「『新金融立国』に向けた施策として、証券・金融、商品を扱う取引所が別々に設立・運営されているという現状に鑑み、2013年度までに、この垣根を取り払い、全てを横断的に一括して取り扱う事のできる総合的な取引所創設を図る制度・施策の可能な限りの早期実施を行う」という箇所です。FTは経済新聞なのですから、当然かもしれませんが。

 「日本は取引市場の統合計画を発表」というこの記事で、「新成長戦略」の言う「『国を開き』(中略)アジアの資金を集め、アジアに投資するアジアの一大金融センターとして『新金融立国』を目指す」とした箇所を取り上げ、その詳しい中身は未定だが、たとえば取引時間の延長や、今までよりも手厚い英語による情報提供などが考えられるという官邸関係者の言葉を紹介しています。

 (ちなみにこれはFTではなく私の感想ですが、この「新成長戦略」そのものの英語訳が23日朝現在、まだ官邸サイトにあがっていないので、そういう部分の情報提供も手厚くしていった方がいいのではないかと思います)

 それでもそこはイギリスの新聞のFT、ジョークや風刺を言わずにはいられないのか(それとも私がそういう部分に反応しすぎるのか)、この取引市場統合については「Quick View」という市況概観コラムが「Japan opens the kimono on exchanges(日本、取引市場の着物を開く)」という、正直言って、着物を着る日本人女性としてかなり不愉快な見出しの記事を(これって「sexist」な表現じゃないのかなあ……)。いわく、これまで国内でバラバラに個別の規則や会員制度で運営されていた10もの市場を、ひとつにまとめて、中国に対抗できるだけの競争力をつけようとしているのだと。それは良いことなので、急いでやるべきだと。それはいいのですが、何もそれを「着物を開く」と書かなくても……ブツブツ。

ピカピカなのかペカペカなのか

 そしてもう一つ「新成長戦略」を茶化し気味なのが、FTの記者ブログ「Alphaville」で人気の日本通、グエン・ロビンソン記者。「日本のピカピカな『新金融立国』」というタイトルの記事で、この「shiny(ピカピカ)」という一言に、彼女の皮肉がこめられていると思います。「ピッカピカの一年生」は褒め言葉ですが、国の方針につく「shiny」は褒め言葉ではないというか、むしろ「ペカペカ」と訳してもいいくらいだと私は思うので。

 「日本の国債をセクシーに仕立て上げて、財政赤字削減を最優先の経済課題に掲げた」新首相は、「新成長戦略」の発表で「自分がいかに本気か示そうとしている」とロビンソン記者。その戦略の中で新政権は、「日本の取引所により多くの資金を引きつけ、アジアにおける競争力を強化するため、2013年までに主要取引所を併合する提案を発表した」と。そうして日本を「開き」、アジアの一大金融センターにするのだと。

 「ただし、日本ではありがちなことだが、このアイディアは聞こえはいいが実践はいかがなものか(But like so much in Japan, the idea sounds better in theory than in practice)」とロビンソン記者はグサリ。

 2013年までに実現する方法は現時点では全く見えていないし、「どの政権にしろ、日本政府が国を金融の中心に変革すると約束するたびに(もう何度も約束してきたのだが)、何か越えがたい障害がたちはだかったものだ」と。日本の税制や規制体系が現存する限り、(日本株に特化する金融企業でさえ拠点とする)シンガポールや香港に太刀打ちできるはずがないと。

 「なので当面の間は、日本のピカピカの『新金融立国』は、くすんだままだろう」と。まさに「ペカペカ」です。

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