「鷹の爪」の大ヒット。パパの会社が上場するまでの仰天ストーリー

「かわいすぎる女子高生社長」として注目されている椎木里佳さん。パパは「鷹の爪」で有名なコンテンツ会社「ディー・エル・イー」の椎木隆太社長です。

 ダイヤモンド社から発売された『女子高生社長、経営を学ぶ』は、上場企業の社長であるパパの「起業から上場まで」のストーリーを追いつつ、ビジネスの肝がわかりやすく学べる1冊。本連載はその中から一部をご紹介します。

(取材・構成:佐藤智、竹村俊介、撮影:小川孝行)

「ここだ!」と思ったら大勝負に出る

里佳 パパの会社が上場するまでの話を聞きたいんだけど。

 ……えっと、「鷹の爪」ってたしか深夜番組からヒットしたんだよね?

「鷹の爪」の大ヒット。パパの会社が上場するまでの仰天ストーリー「秘密結社鷹の爪」……世界征服をたくらむが、何をやっても失敗ばかりの鷹の爪団を描いた脱力系コメディ。2006年、『THE FROGMAN SHOW』(テレビ朝日系)内で放送されるや大ブレイクした、フロッグマンの代表作。その後5回に渡り劇場映画化。2012年からはEテレで放送され、現在4年目。

パパ そう。まず、フロッグマンは、会社に300連泊して「鷹の爪」をつくったわけだけど……。

里佳 300連泊?!

パパ そのうち、横になって寝たのは5日ほどじゃないかな。

 僕も「このままじゃヤバイ、倒れちゃう!」と思って、夜中1時ごろに彼用の簡易ベッドを用意して帰宅したんだけど、朝出社すると、いつも彼はデスクでペンを握って力尽きてた。いまじゃ上場企業だから、そんなブラックなこと不可能だけどね。

里佳 なんで、そんなに頑張ったの?

パパ 「鷹の爪」が生まれる前から、テレビの枠を買っちゃってたんだよね。それで、「THE FROGMAN SHOW」という当時まったくの無名だった島根のおっさんの名前を番組名につけちゃった。だから、彼もクリエイターとして責任重大で絶対失敗できない、人生最初で最大の大勝負と思ったはず。

里佳 追い込んだわけね。

パパ そうだね。彼が命がけで「才能を120%発揮しなくちゃ!」と思うような舞台は整えられたと思う。

里佳 パパお得意の、ひそかに外堀を埋めるパターンだね。

パパ パパもパパで、テレビ朝日の深夜の枠で放送してもらうのに、かなりの値段をテレビ局に払ったからね。実はその直前に6000万円増資して、そのうちの大半をいきなり放送枠確保に使ってしまった。

 しかも、放送はたった3ヵ月だから、そのあいだに結果を出さないといけない。3ヵ月経ったら有無を言わさず放送が終わることは決まっていたからね。この3ヵ月でまさに爪痕を残さなきゃいけなかった。

「増資した直後に全部使っちゃいました、また何千万必要です」なんて言っても、誰も出資を受け入れてくれない。会社の今後のためにも、絶対失敗できない勝負だと感じていたんだ。

里佳 テレビで放送する前にネットで配信したり、You Tubeに載せたりしなかったの?

パパ ぜんぜん。テレビ局に見せて回ってただけ。それも2〜3分のデモ映像が3〜4本だけ。あとは放送することが決まってから作り始めたからね。もう必死だよ。最初は「鷹の爪」の「た」の字もない状態。

里佳 え! じゃあ、まったく感触がわからない中、大金を賭けた?

「鷹の爪」の大ヒット。パパの会社が上場するまでの仰天ストーリー椎木里佳[株式会社AMF代表取締役]
1997年生まれ。現役の高校3年生で、実業家。「女子高生社長」として知られ、都内の高校に通いながら、株式会社「AMF」を経営。小学校のときにホリエモンの活躍を見て、社長業に興味を持つ。中学3年生のときに起業。現在は、学業のかたわら、スマートフォン向けアプリの開発や各種イベント企画プロデュースなどの事業活動を展開している。父は「鷹の爪」で有名なDLEの社長、椎木隆太氏。

パパ うん。ほんと大博打。でも、「ここぞというときは勝負をしないといけない」と僕は思ってるんだ。

里佳 ここが勝負どころだ、って?

パパ 「鷹の爪」をフロッグマンと作り上げ、その面白さには自信があった。で、デモ版を見せたら、予想以上にテレビ局の反応が良かった。ハリウッドメジャーの日本支社であるユニバーサル社も、アメリカのハズブロ社も「めっちゃ面白い」と言ってくれた。「日本で、そして世界で勝負するべきときが来た!」と思ったんだよね。

里佳 でもパパは小さなチャレンジをして、PDCAを回していかなきゃいけないって言ってなかった? これってめっちゃ大きな、危険なチャレンジだよね? ……矛盾してない?

パパ たしかに矛盾してるね。でも、小さなチャレンジをして、手応えを感じた勝負どころでは、大きな勝負も必要だと思うんだ。特に、一発目の勝負では全社をあげて、全身全霊で挑むべきなんだよ。

里佳 うーん……。

パパ 小さなPDCAを回すってことも大切な一方で、ここぞというときは勝負をする。これが大切。結局、小さなチャレンジってなんのためにするかっていうと「手応えがあるところを探すため」なわけだよ。

 よく、雪崩とかで埋もれちゃった人を探すときに、棒を雪に突き刺していくじゃない?で、手応えを感じたらそこに一気にパワーを結集させる。「だいたいこのへんかなあ」って突き刺していって、「ここだ!」と思ったら一気に掘るわけ。

 魚群探知機じゃないけど、小さなPDCAというのは、大きなチャンスを探すための手段でもあるんだよ。

キャッシュカウを手に入れろ

パパ DLEは、最初の挑戦である「鷹の爪」がヒットしたことで、キャッシュカウ(cash cow)を手に入れたんだ。

「鷹の爪」の大ヒット。パパの会社が上場するまでの仰天ストーリー先生・椎木隆太[株式会社ディー・エル・イー代表取締役]慶応義塾大学経済学部卒業。「秘密結社鷹の爪」などをはじめとする、さまざまなキャラクターを保有。1991年4月ソニー株式会社入社。1992年よりソニーインターナショナルシンガポール駐在。1995年ソニーベトナム・ハノイ支社長就任。2001年ソニー株式会社退職後、有限会社パサニア(現株式会社ディー・エル・イー)を設立し、代表取締役就任。

里佳 カウ? 牛?

パパ キャッシュカウっていうのは、会社にとって利益を潤沢に生み出すビジネスっていう意味。いわゆる「乳が出る牛」を手に入れたと考えればいい。
これをもとにして、次の勝負を挑めたりできるわけだ。

里佳 じゃあ、もし失敗しちゃってたらどうなってたの?

パパ 「鷹の爪」が失敗してたら、さっき言ったとおり、もう簡単には増資できなかっただろうね。

 そして当面の資金を得るために、下請け仕事をするようになっただろうね。で、リスクを取って新たな挑戦をしない体質に陥ってしまっただろう。

里佳 暗黒時代の下請け状態に戻っちゃうところだったんだ。

パパ そうだね。それくらい「一発目の勝負は超重要」ってこと。

 起業の最初の頃、少なくとも資金が続いているうちに、たくさんの小さなチャレンジをし、手応えをつかむ。そして勝負どころと判断すれば増資などをして大勝負に挑む。そしてその勝負に勝つことが大切。

 僕たちは「鷹の爪」がヒットして、牛の乳搾り券を手に入れた。キャッシュカウがあれば、乳の出し方を試行錯誤しながらも継続的にキャッシュを手に入れ、より大きなチャレンジをすることができるんだ。

里佳一発目の勝負どころで勝つというのがベンチャーのポイントってことか。

「鷹の爪」の大ヒット。パパの会社が上場するまでの仰天ストーリー

※明日に続きます