今回は、人材派遣会社の創業経営者だった男性の姿を通じて、学歴コンプレックスについて考えてみたい。この男性を仮にA氏とする。A氏は現在、会社の経営を離れている。「最終学歴・高卒」というコンプレックスをバネにして、一時期成功を収めた。
A氏は高学歴で語学のできる20代女性を次々と雇い、派遣社員として派遣先のテレビ局に送り込んだ。なぜ高学歴の多くの女性たちは、知名度が低いこの派遣会社にエントリーをし、働き続けたのか。そこに着眼すると、女性たちの「劣等感」と、この経営者の「学歴コンプレックス」が重なっている状況が見えてくる。ここに、「学歴病」が浸透する温床があるように思える。
高学歴で語学堪能の20代女性を操る
学歴コンプレックスの高卒社長
昨秋、ネット上である男性を見つけた。十数年ぶりだった。しばらくの間、その画面に見入った。この男性・A氏は年齢が60代前半。2010年前後に会社を倒産させた。直後から、社員や取引先の間で「行方不明」と噂されていた。会社の末期には、社員に給料すらきちんと支払わなかったという。
彼が二十数年間社長をしていたのは、都内・赤坂にある人材派遣会社。1980年代後半に創業した。筆者がA氏を取材したのは、1995年の冬。当時、「ニューメディアの旗手」というテーマで、10人前後の経営者を取材したうちの1人だった。取材は赤坂のマンションで行なわれた。学歴にコンプレックスがあるらしいことを漂わせる物言いだった。
「うちの社員には、語学ができる女性が多い。難関大学の外国語学部や文学部を卒業した、20代の女性たちだ。TOEICでは大半が850点以上。東京外語、上智大、慶應、ICU、青山学院、立教、聖心女子、明治学院、独協などのOGだ……」
当時40代前半。身長は180センチ近くあり、筋骨型。離婚したばかりだったが、表情は溌剌としていた。その後、数年に一度のペースで5回ほど取材した。2006年が最後の取材だった。2007年、数人の社員から「業績難のため資金繰りが苦しくなっている」と聞いた。
彼は福岡の出身。高校を卒業後、「こんなところで終わりたくない」と単身上京。「最終学歴が高校卒であることに劣等感を感じていた」と話していた。賃金は高いが仕事が厳しいことで知られる、大手運送会社のドライバーとしてお金を稼ぐ。世の中を見返してやりたい――。そんな思いだったという。