日本経済の低迷が長期化し、景気回復も薄日程度と言われる中で、生産活動を取り巻く環境は厳しさを増している。日本のコスト高、特に人件費やインフラコストの高さを理由に、未だに海外生産にシフトする流れは続いている。日本に残る工場はマザー工場としての役割が期待され、量産品は海外に流出していく。国内に残る工場でも、人件費を変動費化するという名目のために、派遣などの非正規社員が増え、正規社員の比率は低下している。
こうした状況では、生産量が限られ、一定のパイを取り合う競争になるから、元気のある工場は少ないだろうと思われるかも知れない。筆者はできるだけ工場へ足を運び、現場へ深く入りこんで調査・分析することを心がけている。その経験から言うと、国内にもまだまだすばらしいと感じる工場がたくさんある。
腕時計組立工場:
設備を内製し、人を育てて利益率7倍
1つ目の例は、長野県飯田市にある腕時計の組立工場、大手時計メーカーの生産子会社である。時計自体、携帯電話で時刻を確認する人が増え、数量面では大きな伸びは期待できない。1個100万円以上の高級腕時計は、そのほとんどをスイス製のブランドに独占されている。よって、売上げの伸びが限られる中で、いかにして業績を改善するかは、難しい課題と考えられている。
この工場では、2003年に本社の技術部長が社長として就任し、活発に改善活動を進めた。国内メーカーとしては上位価格帯の新モデルを開発し、高度技能者を育成認定して、それらを彼女たちに1台ずつ手組みさせて高級ブランドを育てる一方で、中位価格帯のモデルでは、組立工程の設備化に努めた。
作業者が行っている作業を技術部門の人たちが観察し、その動きを注油ロボ、ネジしめロボなど簡易ロボットに置き換える。もちろん、ロボットは全て内製である。腕時計は小さい。ならば設備が大きい必要はないという考え方で、徹底的にコンパクトな設備を開発した。小さな設備は必要なエネルギーコストが小さく、設備を並べて作られるラインもコンパクトになる。