絶頂か崩壊か 半導体AIバブル#7Photo:123RF

米トランプ大統領の相互関税は米国のデータセンター向けAI(人工知能)サーバーのサプライチェーンを直撃しそうだ。だが、AIのデータ処理能力を高める需要が止まることはないだろう。米エヌビディアと台湾積体電路製造(TSMC)のタッグで市場を拡大したAI半導体の性能向上の鍵を握るのが「後工程」での技術革新だ。その裏では、日本の半導体製造装置と半導体材料メーカーが存在感を強めている。特集『絶頂か崩壊か 半導体AIバブル』の#7では、AI半導体のサプライチェーンに群雄割拠する日本企業の実態に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

半導体“チップレット”時代が本格化
TSMCの裏で存在感放つ日本企業

 3月31日、経済産業省は、最先端半導体の製造を目指すラピダスに対し、2025年度に最大8025億円の支援を追加することを決めた。このうち1270億円は、半導体製造の「後工程」の技術開発向けの投資に使われる。22~25年度に実行される支援の総額、最大1兆7225億円のうち、後工程は1805億円を占める。

 半導体の計算処理能力や記憶容量を高めるには、従来のチップの微細化(前工程)よりも、複数のチップを基板上で組み合わせる後工程の「チップレット化」が重要になってきている。公的支援の対象が後工程にシフトしているのもそのためだ。

 今年4月からラピダスは最先端の2ナノメートル(ナノは10億分の1)半導体の前工程ラインの試作に入ったが、後工程のチップレット化に対応する「先進パッケージング」の研究ラインの導入は今年後半から開始する。

 ラピダスの小池淳義社長は「前工程と後工程の一体化で競争力を高める」と意気込むが、前工程の2ナノ技術だけでなく後工程の技術でも、ラピダスのはるか先を行くのが、台湾積体電路製造(TSMC)だ。

 TSMCが開発した先進パッケージング技術の「CoWoS(コワース)」は、米エヌビディアの最新AI半導体の「ブラックウェル」に使われているほか、米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)のAI半導体「MI300シリーズ」や、グーグル、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、メタなどの米巨大テック企業のAI半導体にも欠かせない、業界をリードする後工程技術である。

 TSMCは、エヌビディアの画像処理半導体(GPU)の単体チップと、韓国SKハイニックスなどのメモリー製品のHBM(広帯域メモリー)を密接に結合させている。ここで重要な役割を果たしているのが日本のサプライチェーンだ。チップの接合、配線、封止の工程に必要な製造装置や材料で、日本企業の技術の貢献は大きくなっている。

 エヌビディア(設計はエヌビディア、製造はTSMC)は最先端のHBMを大量調達する場面で、メモリー最大手の韓国サムスン電子の製品ではなく、SKを採用した。そして実際に採用された要因の一つに日本の材料技術があったという。

 果たして、AI半導体の巨大なサプライチェーンで何が起こっているのか。次ページでは、AI半導体のチップレット化と先進パッケージング技術の進化でチャンスを広げる日本企業の実態に迫る。