『火星の人』は近未来の超リアル・サバイバルSF

 2014年のSF各賞を総なめにした火星サバイバル小説、『火星の人(The Martian)』が映画化され、『オデッセイ(*1)』として日本でも2月5日に公開されました。

映画「オデッセイ」で火星にひとり残された主人公がハカったもの

 7日(日曜日)までの3日間で42万人を動員し、6億円以上を売り上げました。これで、全世界興行収入は6億ドルを突破。リドリー・スコット監督(*2)作品最高の成績を更新中です。

 『火星の人』は、いまから20年後の火星探索ミッションを舞台にしたサバイバルSFですが、その執筆・発刊スタイルもまた、近未来的なものでした。

 作者アンディ・ウィアーは15歳で国立研究所に雇われるほどのプログラマーでした。物理学者を父に持つウィアーはSF好きで、プログラマーとして働きながらも趣味でSF作品を書き続け、彼個人のサイトで公開していました。そして2011年、39歳のとき『The Martian』がアップされました。

 そのあまりの人気にKindle版が発売(*3)され、2014年2月、最終的に紙版が発売された(*4)のです。Kindle版は発売3ヵ月で3万5000ダウンロードに達したとか。

人類最初の「火星で死亡」を逃れるために、
主人公ワトニーがハカったもの

 物語で素晴らしいのはその圧倒的なリアリティですが、もっとも心を打つのは火星探査ミッション中の事故で、ひとり火星に取り残されてしまった主人公ワトニーの、ユーモアと楽天性です。それこそが、彼のめげない精神と抜群の行動を支えているのです。

 あるヒトは映画『オデッセイ』を「観るエナジードリンク」と評しました。そう、この本『火星の人』は、「読むエナジードリンク」と言えるでしょう。読むと動悸が高まり、テンションが上がり、もの凄く前向きになれます。

 気圧が地球の135分の1(つまりほとんど真空状態)、気温がマイナス50℃(冬のエベレスト山頂より寒い)の火星で、ワトニーは精神の安定を保ちつつ、生き延びる術を見つけ、創り出し続けました。

*1 海外での映画題名は本と同じく『The Martian』。日本でも『火星の人』でよかったのに……。
*2 『エイリアン』(1979)、『ブレードランナー』(1982)、『ブラック・レイン』(1989)、『グラディエーター』(2000)、『ロビン・フッド』(2010)、『プロメテウス』(2012)など。
*3 最初は価格が99セントだった。システム上可能な、最低の価格を付けたため。
*4 日本でも即座に翻訳され、2014年8月ハヤカワ文庫SF『火星の人』として出版された。