アドラーを実践し、
幸福になるための「コンパス」
──なるほど。では『嫌われる勇気』と『幸せになる勇気』との違いとは何でしょう?
古賀 『幸せになる勇気』では、「人間にとって幸せとは何か?」という哲学の根本命題ともいえるテーマを扱っています。そして幸福に至る道のなかで「愛」と「自立」という大きなキーワードが浮上してきます。これはアドラーの思想を理解する上で欠かせないキーワードです。
ところが、アドラーの示す「愛」や「自立」は、なかなか理解がむずかしい。たとえば「横の関係」とか「共同体感覚」といった、アドラーの基本原理を知らないままに聞くと、空虚な理想論のように聞こえてしまいます。そのため、前作の『嫌われる勇気』では、「愛」や「自立」についてあまり踏み込んだ話をしていませんでした。アドラーという人物を知り、その思想の基本となる部分を知ってもらうことが大切だったので。今回、ようやくアドラーの語る「愛」や「自立」に触れ、アドラーの幸福論を示すことができたのではないかと思っています。
──前作があったからこそ、今回「幸福論」を語ることができたわけですね?
古賀 はい。岸見先生の「あとがき」にもありますが、『嫌われる勇気』がアドラー心理学の存在を知り、その思想を概観するための、いわば「地図」だとすれば、『幸せになる勇気』は、アドラーの思想を実践し、幸福なる生を歩んでいくための「コンパス」となる一冊なのです。
岸見 今回は前作と違って、アドラーの技法的なところより哲学的な部分をクローズアップしています。他の心理学とは異なり、アドラー心理学はほとんど哲学と言ってよいと思います。利用できればいいといったものではなく、生き方そのものまで根底からくつがえすようなパワフルな哲学であることは強調しておきたい。上澄みだけを利用しようとするのでは、本当にアドラーを理解したことにはなりません。それが今回の本の大きな狙いだと思っています。
(続く)