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莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見

相次ぐストの背景にある「民工荒」問題
安い労働力を求めるだけの中国進出はもう終わりだ

莫 邦富 [作家・ジャーナリスト]
【第10回】 2010年7月15日
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 参議院選が行われた7月11日の午前中に、テレビ朝日の「サンデー・フロントライン」という番組に生出演した。中国に進出した日本企業の工場で今年5月から広がっているスト拡大の波紋についてコメントを述べさせてもらった。

 番組のVTRでは、ある日系アパレル企業の幹部がこうした問題も含めて「中国リスク」と決めつけ、バングラディシュに生産の大半を移転したと言っていた。それに対して私は、安い人件費などを求めて中国に進出したこの企業がこのような判断で中国ビジネスを見ているならば、そもそもこの企業では海外戦略といったものが存在しないと切り返した。なぜかというと、中国の現地事情の変化と会社の中国経済における立ち位置をまったく理解していないからだ。

 人口13億以上、労働力が無尽蔵にあると思われている中国は、実は慢性的な求人難という状態に陥っている。先日、うちの事務所と顧問契約をしているB社から、同社が中国浙江省の会社に発注した商品がなかなか送られてこないという相談を持ちかけられた。B社に代わって事務所の者が浙江省の会社に問い合わせると、中国人同士の話なので、先方が原因を素直に教えてくれた。いまはなかなか労働者が集まらない。だから、受注した仕事の多くが納期通りに出荷できなくなっているという。事情が分かって一件落着したが、中国の労働力不足の深刻さを垣間見た思いがした。

 こうした労働力不足問題を、中国では「民工荒」という言葉で表現している。ここにある「荒」とは農業用語で、日本語に訳すと「不作」「凶作」となる。「不作」「凶作」ならば天候不順などの一時的な原因でその年に期待していた収穫が期待通りには得られなかったと理解すればいい。天候が変われば、その次の年はまた期待できる。しかし、中国で出現したこの「民工荒」は、むしろこれからますます深刻化していく問題だ。中国に進出した日系企業は今からこうした事態に対応する態勢を作らないと、中国での生産活動が維持できなくなる恐れがある。

 実は、この「民工荒」は今に始まった問題ではない。2004年に深圳を代表とする珠江デルタ全域ですでに起きた現象であった。当時、人々は労働者の給与水準を低く抑えすぎたのが原因だと見て、最低賃金の水準を上げる方法で対応した。しかし、この「民工荒」の嵐は収まる気配を見せなかった。長江デルタや中部地域の安徽省、江西省など長いこと労働力を輸出していた一部の地方でも同様の傾向が現れた。07年になると、余剰労働力が一番多いといわれる西部の甘粛省でも、次第に「民工荒」に悩まされるようになった。

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莫邦富(モー・バンフ) [作家・ジャーナリスト]

1953年、上海市生まれ。85年に来日。『蛇頭』、『「中国全省を読む」事典』、翻訳書『ノーと言える中国』がベストセラーに。そのほかにも『日中はなぜわかり合えないのか』、『これは私が愛した日本なのか』、『新華僑』、『鯛と羊』など著書多数。


莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見

地方都市の勃興、ものづくりの精度向上、環境や社会貢献への関心の高まり…中国は今大きく変わりつつある。先入観を引きずったままだと、日本企業はどんどん中国市場から脱落しかねない。色眼鏡を外し、中国ビジネスの変化に改めて目を凝らす必要がある。道案内人は日中を行き来する中国人作家・ジャーナリストの莫邦富氏。日本ではあまり報道されない「今は小さくとも大きな潮流となりうる」新発見を毎週お届けしよう。

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