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野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて

政府が春闘に介入しても
賃金は増えず経済は活性化しない

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第53回】 2016年3月10日
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「好循環」を実現すべく、政府は企業に賃上げを働きかけているが…

 2014年以来、安倍晋三内閣は、春闘に介入して企業に賃上げを要請してきた。企業が利益を上げていることから、その成果を内部留保にするのでなく、賃上げに回すべきだとの考えだ。

 しかし、春闘がカバーする部門では、賃金は上昇しているが、就業者が減っている。他方、春闘がカバーしない部門で就業が増え、そこで賃金が下落する。このために、全体の賃金が下落するのである。

 この問題を究極的に解決するには、生産性の高い新しい産業が登場するしかない。

企業利益が著しく増えているのに人件費は減少
問題は賃金上昇率ではなく「人減らし」

図表1には、法人企業統計による日本の全企業(全産業・全規模)の計数を、2012年10~12月期と15年10~12月期で比較したものを示す。

 まず、営業利益は、この間に5.1兆円増えた。率では、48.3%増という高い伸びである。

 ところが、人件費は、この期間に0.8兆円減少している(1.9%の減少)(注1)

 したがって、「企業の利益が著しく増えているにもかかわらず、人件費が減っている」というのは事実である。

◆図表1:法人企業の利益や人件費などの動向

(資料)法人企業統計 拡大画像表示

 では、これを人員数と1人当たり人件費に分解するとどうか?

 図表1に示すように、人員は4.3%の減。賃金は2.6%の上昇である。

 このように、賃金が上昇したにもかかわらず、人員が減少したために、人件費が減少したのである。

 つまり、図表1を見る限りでは、「人件費を減少させている主要な原因は、賃金の上昇率というよりは、人減らしである」ということになる。

 そうだとすれば、「春闘に介入して賃上げを要請しても、経済全体の賃金所得の増加にはあまり効果がない」ということになるだろう。

(注1)法人企業統計において、「人員」は「従業員」より広い概念であり、「人件費」は「従業員給与」より広い概念である。
 2015年10~12月期において、全産業全規模で、「従業員計」は3158万6230人、「人員計」は3391万90人である。また「従業員給与」は27兆9144億円、「人件費計」は43兆5496億円である。
 従業員1人当たり給与は88.4万円であり、人員あたり人件費は128.4万円である。両者の動向は、あまり大きく違わない。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて

アメリカが金融緩和を終了し、日欧は金融緩和を進める。こうした逆方向の金融政策が、いつまで続くのだろうか? それは何をもたらすか? その先にある新しい経済秩序はどのようなものか? 円安がさらに進むと、所得分配の歪みはさらに拡大することにならないか? 他方で、日本の産業構造の改革は遅々として進まない。新しい経済秩序を実現するには、何が必要か?

「野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて」

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