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『週刊文春』編集長が明かした、
列島を揺るがす「文春砲」の神髄

有井太郎
2016年3月11日
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「元少年A」追跡記事への反応は
メディアの現状を象徴していた

 新谷氏は「メディアのアンタッチャブルゾーンは増えている」と言ったが、なぜそのような状況が起きているのだろうか。

 「1つは訴訟の問題です。以前より求められる立証のハードルは高くなっており、裁判での負担が大きくなっています。また、事実かどうかにかかわらず、プライバシー侵害になるケースも増えています。費用対効果を考えると、そこまでのリスクを負って長期にわたる調査報道を行うのは厳しい。それゆえに、際どい記事を避けるメディアが増えていると感じます」

 新谷氏が編集長に就任した直後は、裁判で負けることも少なくなかった。その際、「かつての戦い方では通用しない」と痛感したという。以降は、「裁判を恐れないよう記者には伝えていますが、同時に裁判に負けない記事を書くことを徹底しています」と語る。

 そしてもう1つ、タブーが増える要因として、新谷氏は「メディアの炎上恐怖症」を挙げる。「メディアが世間の反応に敏感になりすぎて、きれいごとばかり並べる傾向がある」という。

 そんなメディアの現状を、新谷氏が痛切に感じた出来事があったという。元少年Aに対するスクープを打ったときだった。

 「元少年Aの追跡記事は、世の中に対する問題提起のために掲載しました。彼の出版した『絶歌』を読んで、いくつかの疑念が生じたのです。彼は本当に更生しているのだろうか。遺族、被害者への贖罪意識にも疑問が残りました。さらに、あれだけの重罪を犯した人物を社会はどう受け入れるべきなのか、少年法の在り方も含めて、様々な問題を問いかけるべきだと考えたのです。もちろん、掲載の是非については何度も編集部内で議論しました。他メディアから質問された際のコメントまで用意していました」

 しかし、そのスクープについて「大手メディアの反応はまったくの“空振り”だった」と新谷氏は言う。実際、ネット上の反応を報じた新聞社があった程度で、大手メディアで期待していた議論が巻き起こることはなかった。

 「ツイッターなどでは記事について大きな反響があったのに、テレビ・新聞ではまったく取り上げられませんでした。ベッキーさんの記事があれだけ後追い報道されて、なぜ元少年Aは無反応なのか。そのコントラストにメディアの現状を見た気がします。元少年Aの記事の方が、社会にとってずっと重大な問題だと考えていますから」

 そんな新谷氏も、昨年10月、週刊文春に春画のグラビア記事を掲載したことに対し、「編集上の配慮を欠いた」として、3ヵ月の休養を命じられた。それを経ても「タブーを恐れない姿勢は変えません」と言うが、「報じる相手の選び方、報じ方については一層慎重に判断しています」と付け加えた。

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