史上最悪ともいわれるメキシコ湾の原油流出事故。開発を主導するBPの支払総額は400億ドルに達するとの見方もある。事故原因次第では、一部権益を持つ三井物産にも重い負担が課せられる。ただ、事故の影響は関係企業や地元住民にとどまらない。総合商社の資源投資のスタイルを転換させる可能性もあるという。

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「メキシコ湾の原油流出事故で急落した三井物産株を、アジアの政府系ファンドが200億円規模で買った」。7月上旬、そう明かした商社関係者は、史上最悪ともいわれる流出事故に対する悲観論が、後退しつつあると指摘した。

 悪夢の始まりは4月20日夜、米ルイジアナ州沖のメキシコ湾で、英石油メジャーのBPがオペレーター(操業主体)を務める原油掘削リグ「ディープウオーター・ホライズン」が爆発。11人の犠牲者を出すとともに、水深1500メートルの深海から大量の原油が噴き出し始めた。リグとは海底油田掘削のための海上の巨大な構造物だ。

 事故を起こした鉱区の権益は、BPが65%、米独立系石油大手のアナダルコ社が25%、三井石油開発が10%を保有している。

原油価格は現状1バレル当たり70ドル台だが、流出事故の余波で深海油田への規制が厳格化され、中期的な原油の供給懸念が出ると、2010年後半にかけて80~90ドル台に上昇するとの予測もある

 三井石油開発には三井物産が7割出資していることから、事故前に1600円を超えていた三井物産の株価は、7月に入って一時1000円を割る水準まで売り込まれた。その後、8月中に流出が止まる見通しとなり、また株価が流出事故の費用負担額をすでに織り込んだ水準であるとの見方が強まったことなどから、買い戻される動きが出ていた。

 しかし、大手商社幹部は、「日本へのインパクトが表面化してくるのはこれからかもしれない」と意外な言葉を口にした。

 油田開発の歴史は、生命の進化とは逆の道を歩むかのようだ。陸上で優良案件が掘り尽くされた油田開発は、海へと舞台を移し、さらに1990年代に入ると、石油会社は浅海域からディープウオーターと呼ばれる水深500フィート(約150メートル)を超す深海へ、われ先にと潜行した。

 深海開発は莫大なコストと宇宙開発に匹敵する高い技術力を要する。油井を1本掘るには100億円もかかる。浅海域の10倍以上だ。リスクも格段に増した。安全措置はより複雑化し、海底での作業には遠隔操作ロボットが投入された。