環太平洋経済連携協定(TPP)が、各国の批准を前に、失速し始めた。「21世紀の経済ルールを描く」と主導してきたアメリカで鮮明になっている。オバマ大統領は残る任期で批准を目指すというが、肝心のTPP実施法案の成立は絶望視されている。
大統領候補の指名レースで、「TPP賛成」だった共和党のルビオ候補が地元フロリダで負け、撤退を表明。TPPを担ぐ候補は1人もいなくなった。トップを走るトランプ候補は「完全に破滅的な合意だ」と歯牙にもかけない。民主党ではオバマ政権でヒラリー・クリントン候補が「反対」を表明。追撃するサンダース候補はTPP批判の急先鋒だ。
TPPは2月4日に各国が署名した。この日を起点に、2年以内に加盟国が国内手続きを終えれば、その60日後から発効する。手続きが終わらない国があっても、6ヵ国以上が手続きを終え、それらの国のGDPを足し合わせ全体の85%を超えれば発効となる。
ということは経済規模が大きい米国と日本の手続き完了が不可欠なのだ。どちらかが批准にしくじればTPPは成立しない。
米国のグローバル資本に
ハイジャックされたTPP
「TPPはアメリカの国益につながる戦略的経済連携」と日本では理解されてきた。シンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリという「4つの小国」が自国にない産業を補い合う経済連携だったTPPにアメリカが目をつけ、「アジア太平洋市場」を自分のルールで作ろうとしたのがTPPだ。
「ここでTPPは変質した。投資と金融サービスが新たに盛り込まれ、グローバル資本によるルール作りが前面に出るようになった」
協定文書の分析をしている和田聖仁弁護士は指摘する。
小国連合だったTPPはアメリカにハイジャックされ、針路が変わった。操縦桿を握るのはアメリカ発のグローバル資本である。
「米国でTPP交渉を担当するのは通商代表部(USTR)。ここは商務弁護士の巣窟でアメリカに都合のいいルール作って世界で覇権を目指す戦略的部門です」
日本の通商関係者はいう。