泡沫候補が有力になった訳
怒りや不満に応えるポピュリズム
3月15日のミニ・スーパーチューズデーを終え、米国大統領選予備選挙の帰趨が見えてきている。民主党についてはヒラリー・クリントン元国務長官が民主党候補者として選出されることがほぼ確実となっている。
一方、共和党については不動産王、ドナルド・トランプ氏の躍進が止まらず、今後はトランプ氏が最終的に代議員の過半数を得て勝ち残るか、あるいは過半数を得る候補者がなく7月の共和党大会での決着(ブローカード・コンベンション)が図られることになるのか、二つのシナリオに絞られてきた。
予備選前には泡沫候補と見なされ、常識では考えられない過激な主張を掲げてきたトランプ氏がかくも有力となったのは何故なのだろうか。クリントン氏が無名のバーニー・サンダース上院議員に苦戦を強いられたのはどのような理由なのか。予備選を通じて浮かび上がってきた米国政治の趨勢を理解し、米国が大統領選挙で何を選択しようとしているのか解き明かそう。
トランプ氏のキャンペーンで最も強烈な印象を与えているのは、多くのアメリカ人の持つ不満に真正面から向き合い、これに極めてアメリカ的で短絡的な回答を与えていくという分かりやすさである。
“米国の労働者が不法移民に職を奪われているのだとすれば、彼らを国外退去させよう。不法移民の流入を阻止するためにメキシコとの国境にメキシコ側の負担で壁を建設させよう。イスラム過激派のテロを防止するためには当面イスラム教徒の入国を拒否しよう。テロリストには拷問も必要だしその家族を殺害することも許される”
もちろん、トランプ氏はこれらが現実の政策としては成り立たないことが分かっているはずであろうし、米国民もトランプ氏を好ましい大統領候補と考えている訳でもない。3月3日~6日に行われたNBC/WSJ調査によれば、トランプ氏を積極的に評価する人は25%、消極的に評価する人は64%で主要な候補者に比べ最も低い評価となっている。しかし予備選挙の中では同氏の優位は動かない。
これは、トランプ氏に対する積極的な支持というより、アメリカ人の持つ不満や憤りの強さを同氏への投票で示しているのではないのだろうか。この不満や怒りといったものは、民主党の予備選挙でもサンダース氏が善戦している最大の要因なのではないのだろうか。