オランダの建築家イスラエルの水ベンチャーウォール街の投資家グリーンランドの自治政府リーダー……現在、多様な人たちが地球温暖化を「糧」にし、利益を生み出そうとしている。では、日本はどうなのだろう。『地球を「売り物」にする人たち』を「自己保存と目先の利益を追い求める、『共有地(コモンズ)の悲劇』と、いわゆる『現在志向バイアス』の物語」と喝破した翻訳者の柴田裕之氏の「訳者あとがき」を読みとくと、今なぜ日本で読まれるべきなのか、そして日本の未来は温暖化でどのようなシナリオを辿るのかが見えてくる。

24ヵ国をめぐってわかった
「気候変動に関してもっともつらい真実」

日本人だけが知らない!?<br />「温暖化ビジネス」が突きつける2つのシナリオ縮小を続けるアラスカのチュクチ海。シェルが2012年に掘削を始めたこの海は、120億バレルもの石油を産出しうる(撮影:著者)
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気候変動ほど大規模で普遍的な出来事が、悪いことばかりであるはずがない。そこには途方もないビジネスチャンスがある。本書をお読みになった方は、その大きさと多様性に驚かれたかもしれない。これまで、気候変動のこの「カネ」にまつわる側面が、これほどまとまったかたちで日本に紹介されたことは、おそらくなかっただろうから。

 気候変動関連ファンド(じつは、クリーンテクノロジーやグリーンテクノロジーよりも、むしろ温暖化が進んだときに業績が伸びそうな企業を重視)、氷が解けて開ける北極海の航路とその領有権、やはり氷が解けることでアクセス可能になる地下資源(北極海やグリーンランドなどの石油、天然ガス、鉱物資源など)、人工雪製造、淡水化プラント、火災やハリケーンなどの保険、営利の民間消防組織(保険会社と提携し、料金を支払う人だけを守る)、水供給ビジネスや水利権取引、農地獲得(豊かな国や企業が、21世紀最初の10年間で日本の面積の2倍以上を確保)、難民の流入防止や拘束、護岸壁や防潮堤、浮遊式の建物や都市の建設、バイオテクノロジー(病原体を運ぶ蚊の駆除や遺伝子組み換え農作物など)、気候工学の応用(人工降雨、太陽光を遮る成層圏シールドなど)……。

人間の創意工夫と抜け目のなさには舌を巻くばかりだ。そして、これらが温暖化の対策となるのなら、ビジネスチャンスを活かして儲けてなぜ悪いのか?

 それは、そこに「不公平」があるからだ。多くの場合、儲けを手にしたり恩恵を受けたりするのは、もともと豊かで、そもそも温暖化に大きく貢献している人々であり、そのしわ寄せを受けるのは、もともと貧しく、そもそも温暖化にはたいして寄与していない人々であるという、いわば「加害者」と「被害者」の構図が存在するのだ。そこに「気候変動に関してもっともつらい真実」がある。

 日本をはじめ、温暖化に「貢献」した国々では、こうした「不都合な真実」は見えにくい。「地球温暖化は本当に起こっているのかどうか」という議論で覆い隠されているのだ。柴田氏が抱えているのは、そうした日本の無知と無関心が、みずからの首を絞めかねない、そんな懸念だ。「加害者」と「被害者」、双方のシナリオから、日本の未来は見えてくるのだろうか。