ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
地球を「売り物」にする人たち
【第1回】 2016年3月11日
著者・コラム紹介バックナンバー
マッケンジー・ファンク,柴田裕之

「沈む島国」に◯◯を売り込む
えげつない国家オランダ

1
nextpage

地球温暖化は、新たなビジネスチャンスだ――。
そんなことを耳にすれば、「温暖化は止めなければならない」と刷り込まれてきた私たちは、極めて強い違和感、嫌悪感を抱くのではないだろうか。しかし、昨今刊行された『地球を「売り物」にする人たち』によると、実は世界には「温暖化は起こるものだ」と考え、温暖化「後」を見据えた「えげつないビジネス」を展開する、現実的で利益第一主義的な人々、企業、国家が増えているという。
中でも私たちの印象を裏切るのが、オランダである。なぜオランダは、温暖化で儲けられるのか? そこには、海抜以下の土地でGDPの7割を叩き出すオランダ人の逆転の発想と、ある種の「開き直り」があった。

気候変動による海面上昇を機に、
「護岸壁」を売りまくる

水没の危機に瀕している国や都市に対し、オランダは護岸壁や防潮堤を売り込んでいる。写真は、その象徴とも言えるマエスラント堰でのプレゼンテーションの様子(撮影:著者)<拡大画像表示>

 低地国として有名なオランダの人間が、海面上昇についてきわめて実務的な態度をとったとしても、驚くには当たらなかった。過剰な水に対するこの富裕な国の意外な反応は、長いあいだ水不足に直面してきた国々の反応を逆映しにしたかのようだった。旱魃にかけてはベテランとも言えるスペインやオーストラリア、イスラエルといった国々は、気候変動をかならずしも快く思ってはいなかったが、それを契機に海水淡水化プラントの設計改良に努め、今ではそのプラントを喜んで他国に販売していた。洪水対策の権威であるオランダ人も、気候変動をとりたてて憂慮するでもなく、護岸壁を喜んで売るだろう。

 オランダの地盤沈下との闘い、さらにはライン川とマース川の河口に広がる低湿のデルタ地帯の干拓史は、中世にさかのぼる。同国の象徴である風車は、揚水機の動力源として利用されていた。テクノフィクス(ハイテクによる問題解決)に対する同国の信念は、見渡すかぎりほぼすべてが人工的な景観に根差している。海抜以下の土地で、同国の人口の3分の2が暮らし、GDPの7割が生み出されている。1997年に、オランダは75億ドル規模のデルタ計画(訳注 1953年の大洪水を契機に始まった大規模治水計画で、ライン川・マース川・スヘルデ川のデルタ地帯を高潮の被害から守ることを目的とする)を完遂した。その堤防やダム、防潮堤は、世界一強大な護岸ネットワークを形成し、どんな防護林や国境バリケードよりもはるかに複雑な驚くべきエンジニアリング事業の成果と言える。

 自国以外の世界じゅうの国々が海への不安を抱きはじめるなか、オランダは浚渫会社やエンジニアリング会社から水上建築の専門家まで、自国の水管理に関する専門技術を積極的に売り込んだ。同国にはすでに、大々的に宣伝できる著名な国際的な成功例が1つあった。マンハッタンは、オランダあってこそ、今の姿が見られるのだ。ニューヨークの一部は、当時ニューアムステルダムと呼ばれていたこの地に移り住んだ初期のオランダ人入植者が行った干拓による。オランダ人が母国にとどまっているかぎり、元祖アムステルダムもまた、その姿を保てるだろう。そして、国土が存続することが、最高の宣伝になるのだ。

 その護岸壁の信頼性の証あかしとして、リスク関連のコンサルタント会社のメイプルクロフト社が公表した気候変動脆弱性指数で、オランダはアイスランドやデンマーク、フィンランド、ノルウェーといった北の国々と肩を並べて、リスクが低いとされる下位にランクされ、調査対象となった170ヵ国中160位だった。

 (2011年に)私はオランダに足を運んでいた。この豊かな国にとって、気候変動がバングラデシュやマーシャル諸島の場合といかに異なるのかを理解するためだ。アムステルダムでは、ニューオーリンズからジャカルタ、ホーチミン、ニューヨークまで、河川デルタ地帯に位置し、危険にさらされている世界じゅうの都市が一堂に会する初めての会合と銘打たれた、「アクアテラ」という会議が開催されていた。そこで私は、われわれは「新たなビジョン」のためにここに集った、と開会の辞で宣言されるのを聞いた。「テーマは、適応であり、事業開発であり」と演説者は続けた。「チャレンジとチャンスであり、価値の創出であり、連帯であり、起業家たることであります!」(『地球を「売り物」にする人たち』306-308ページより抜粋)

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
はじめての問題解決力トレーニング

はじめての問題解決力トレーニング

斎藤 顕一 著/竹内 さと子 著

定価(税込):本体1,600円+税   発行年月:2016年5月

<内容紹介>
これまでの問題解決本は難しすぎた。マッキンゼーで実践し、BBT大学・大学院の人気講座で教える著者がつくった普通のビジネスパーソンのための問題解決法」。一般ビジネスパーソンができる範囲で図を描き進めることで、問題解決のための分析ができ、問題の本質に迫ることができるようになります。

本を購入する
ダイヤモンド社の電子書籍
(POSデータ調べ、5/8~5/14)


注目のトピックスPR


マッケンジー・ファンク(McKenzie Funk)
アメリカ・オレゴン州生まれ。スワスモア大学で哲学、文学、外国語を学ぶ。2000年からアメリカ各地、海外に赴いて記事を書く。解けてゆく北極圏の海氷の報道で環境報道に与えられるオークス賞を受賞し、タジキスタンで実施したグアンタナモ強制収容所から初めて解放された囚人のインタビューで若手ジャーナリストに与えられるリヴィングストン賞の最終候補に残った。これまでハーパース、ナショナル ジオグラフィック、ローリングストーン、ニューヨーク・タイムズなどに寄稿し、高い評価を受ける。本書が初の著書となる。
本書は、ニューヨーカーでエリザベス・コルバートが「必読書」に、米アマゾンで2014年1月の「今月の1冊」に選出されたほか、さらにネイチャー、ウォール・ストリート・ジャーナル、GQ等、書評が掲載された紙誌は数十にのぼる。
著者ホームページ:http://www.mckenziefunk.com/#windfall
 

柴田裕之(しばた・やすし)
1959年生まれ。翻訳者。訳書にジェレミー・リフキン『限界費用ゼロ社会』(NHK出版)、ウォルター・ミシェル『マシュマロ・テスト』(早川書房)、アレックス(サンディ)・ペントランド『正直シグナル』(みすず書房)、ジョン・T・カシオポ他著『孤独の科学』(河出書房新社)、マイケル・S・ガザニガ『人間らしさとはなにか?』(インターシフト)、サリー・サテル他『その〈脳科学〉にご用心』、ダニエル・T・マックス『眠れない一族』(以上、紀伊國屋書店)、ポール・J・ザック『経済は「競争」では繁栄しない』、フランチェスカ・ジーノ『失敗は「そこ」からはじまる』(以上、ダイヤモンド社)ほか多数


地球を「売り物」にする人たち

「北極が解ければ、もっと儲かるのに」
「地球温暖化は、新たなビジネスチャンスだ」

氷の下の資源争奪戦に明け暮れる石油メジャー、水と農地を買い漁るウォール街のハゲタカ、「雪」を売り歩くイスラエルベンチャー、治水テクノロジーを「沈む島国」に売り込むオランダ、天候支配で一攫千金を目論む科学者たち……。
温暖化「後」の世界を見据えて、実際に気候変動を利用して「金持ち」になるべく行動を起こしている国家、企業、人物を世界24か国で徹底取材。
日本人だけが知らない地球温暖化ビジネスの実態とは。

ニューヨーカー、ウォール・ストリート・ジャーナル、ネイチャー、GQ、ワイアード、タイム……絶賛の超話題書、ついに日本上陸。

「地球を「売り物」にする人たち」

⇒バックナンバー一覧