「気候変動ほど大規模で普遍的な出来事が、悪いことばかりであるはずがなかった。生態面での大惨事は、誰にとっても金銭面での大惨事であるとはかぎらないのだ」
これは、『地球を「売り物」にする人たち』の冒頭、温暖化が進むほどに儲かる気候変動ファンドの実態を目の当たりにした著者マッケンジー・ファンク氏の言葉だ。世界有数のエリートが集まるウォール街にかかれば、気候変動から儲けの機会を見つけることなど、たやすいことのようだ。彼らハゲタカたちが次に狙う「獲物」を、その生々しい証言とともに紹介しよう。

気候変動で「保険会社の株価」が上がる!?

世界の「農地」を買いあさる<br />ウォール街のハゲタカどもの呆れた実態本書第7章で中心的な役割を果たす投資家フィル・ハイルバーグ(右)。スーダンの国家分裂に乗じて、土地の買い上げを画策していた(撮影:著者)
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 気候変動関連のほかの投資家たちは、新しい低炭素経済には欠かせないクリーンテクノロジーやグリーンテクノロジーの企業に投資する一方で、気候変動の影響が深刻化する事態にも備えはじめていた。

 ロンドンでは、シュローダー・グローバル気候変動ファンドがロシアの農地(安価で肥沃な耕作地が、温暖な冬と、旱魃に煽られた世界的な食糧危機のせいで、突如高価になった)に投資しており、ファンドマネジャーはこのロジックをさらに一歩進めて、カルフールやテスコといったスーパーマーケットチェーンの株式を購入していた。「もし気候変動が農作物の収穫高に悪影響を及ぼすなら、消費者は食料品にどうしても前より多くお金を使わざるをえなくなります。小売業者がその恩恵を受けるのは明らかでしょう」とそのマネジャーは私に語った。

 街の反対側では別のファンドマネジャーが、ミュンヘン再保険やスイス再保険といった再保険会社の先行きを楽観している理由を説明してくれた。「気候変動が洪水や旱魃を引き起こしはじめ、自然災害がありふれてくると、保険会社、とりわけ再保険会社は価格決定力を持つはずです」と彼は言う。そのおかげで保険会社は料率を上げられるので、「ハリケーンが毎年猛威を振るうのは、実はたいへんな好材料なのです」

 ウォール街の音に聞こえたある投資銀行のパートナーは、ウクライナの農地の写真を示しながら、自分の銀行は現地で「広大な土地」の買い上げに動いた、と語った。旧ソ連時代の集団農場は、「生きていくのもやっと」の状態に逆戻りしていた、と彼は言う。「連中のところへ行って、ウオッカのボトルを数本と、ふた月分かそこらの穀物を差し出せば、引き換えに何千ヘクタールも手に入るんですよ。本当に、ウオッカと穀物をくれてやるだけで(『地球を「売り物」にする人たち』v-viページ)

 ウォール街が「農地」を買いあさる? いったいどういうことなのだろうか。その背景を追うと、「地球温暖化は起こるもの」という前提に賭けたハゲタカたちのあっけらかんとした投資行動があった。