ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
地球を「売り物」にする人たち
【第4回】 2016年3月23日
著者・コラム紹介バックナンバー
マッケンジー・ファンク,柴田裕之

温暖化のおかげで「独立」が買える!?
グリーンランドが抱える「究極のジレンマ」

1
nextpage

海面上昇を歓迎し護岸壁を売るオランダ、水不足に潜在市場を見るイスラエル、農地を買い占めるウォール街と、本連載では気候変動でカネを稼ぐ人たちを紹介してきた。だが、多くの人にとって地球温暖化といえば、「海面上昇で島国ツバルが沈むのでよくない」「ホッキョクグマが絶滅してしまうから止めるべきだ」といった、倫理的な問題なのではないだろうか。
しかし現在、こうした倫理的な問題にもカネが入り込んでいる場所がある。毎年大量の氷床を失っている、一見「被害者」のグリーンランドである。2008年、自治拡大に向けての住民投票を控えた現地を訪れた『地球を「売り物」にする人たち』著者マッケンジー・ファンク氏は、そこで本物の「不都合な真実」、そして人々が抱える究極のジレンマを見ることになる。

気候変動の「恩恵」に沸くグリーンランド

氷河が後退するにつれて鉱床が露出しているブラック・エンジェル鉱山。こうした鉱山から生まれる資金が、デンマークからの独立に向けての運動に流れているという(撮影:著者)
拡大画像表示

 私がグリーンランドに到着したとき、デンマークからの分離独立を主張する住民が、島の西岸をなかばまで北上したところにあるウパーナヴィークの体育館に集まっていた。ウパーナヴィークは、木がまったくない北緯73度のツンドラ地帯にある人口1100人の町で、グリーンランドの行政の中心であるヌークからは960キロメートル余り北に位置している。

 グリーンランドは3世紀にわたってデンマークの植民地だったが、現在は石油と鉱物資源のブームを迎えようとしており、これまでと違う存在になる可能性が出てきた。世界初の地球温暖化が生んだ国家になるかもしれないのだ。

 私がこの地にやってきたのは、独立主義者の巡回説明会に同行し、気候変動の犠牲者であるはずの人々がそれで儲けはじめているのを、この目で確かめるためだった。グリーンランドは、先進国の国民の多く、つまり北半球の住民の多くが直面するジレンマの極端な例だ。地球温暖化が彼ら個人にとってたいした害にならず、むしろ得にさえなるかもしれないのであれば、歓迎して何が悪いのか?(『地球を「売り物」にする人たち』72-73ページより抜粋)

 犠牲者であるはずのグリーンランドが、それで儲ける――倫理とカネの問題は、この地で「不都合な現実」を生んでいるようだ。しかし、なぜ儲かるのか? 現地で見えてきたのは、北極海に眠る地下資源だけではない、有り余るほどのビジネスチャンスだった。

 陸地では氷河が後退して、亜鉛、金、ダイヤモンド、ウランの巨大な鉱床が現れつつあった。

 彼らは採掘によって自らを解放するつもりだった。デンマークとの協定では、グリーンランドは最初の1500万ドルの取り分を除いた鉱物資源収入をデンマークと折半することになっている。収入が増えるにつれ、現在6億5000万ドル交付されているデンマークからの補助金は削減される。最終的には5年から10年、あるいは15年から20年で、温暖化が進んで生産量が増えれば補助金はゼロになり、グリーンランドは晴れて独立を宣言する。化学には活性化エネルギーというものがある。熱を加えると反応が生じる。グリーンランドには地球温暖化があった。熱を加えると独立革命が生じる。だがこれは気候変動のペースで進む分離独立であり、反応には時間がかかる。

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
まいにち小鍋

まいにち小鍋

小田真規子 著

定価(税込):本体1,100円+税   発行年月:2016年11月

<内容紹介>
簡単で安くて、ヘルシー。ポッカポカの湯気で、すぐにホッコリ幸せ。おひとりさまから共働きのご夫婦までとっても便利な、毎日食べても全然飽きない1〜2人前の小鍋レシピ集!「定番鍋」にひと手間かけた「激うま鍋」。元気回復やダイエットに効く「薬膳鍋」や、晩酌を楽しみたい方に嬉しい「おつまみ鍋」など盛り沢山!

本を購入する
著者セミナー・予定
(POSデータ調べ、11/20~11/26)


注目のトピックスPR


マッケンジー・ファンク(McKenzie Funk)
アメリカ・オレゴン州生まれ。スワスモア大学で哲学、文学、外国語を学ぶ。2000年からアメリカ各地、海外に赴いて記事を書く。解けてゆく北極圏の海氷の報道で環境報道に与えられるオークス賞を受賞し、タジキスタンで実施したグアンタナモ強制収容所から初めて解放された囚人のインタビューで若手ジャーナリストに与えられるリヴィングストン賞の最終候補に残った。これまでハーパース、ナショナル ジオグラフィック、ローリングストーン、ニューヨーク・タイムズなどに寄稿し、高い評価を受ける。本書が初の著書となる。
本書は、ニューヨーカーでエリザベス・コルバートが「必読書」に、米アマゾンで2014年1月の「今月の1冊」に選出されたほか、さらにネイチャー、ウォール・ストリート・ジャーナル、GQ等、書評が掲載された紙誌は数十にのぼる。
著者ホームページ:http://www.mckenziefunk.com/#windfall
 

柴田裕之(しばた・やすし)
1959年生まれ。翻訳者。訳書にジェレミー・リフキン『限界費用ゼロ社会』(NHK出版)、ウォルター・ミシェル『マシュマロ・テスト』(早川書房)、アレックス(サンディ)・ペントランド『正直シグナル』(みすず書房)、ジョン・T・カシオポ他著『孤独の科学』(河出書房新社)、マイケル・S・ガザニガ『人間らしさとはなにか?』(インターシフト)、サリー・サテル他『その〈脳科学〉にご用心』、ダニエル・T・マックス『眠れない一族』(以上、紀伊國屋書店)、ポール・J・ザック『経済は「競争」では繁栄しない』、フランチェスカ・ジーノ『失敗は「そこ」からはじまる』(以上、ダイヤモンド社)ほか多数


地球を「売り物」にする人たち

「北極が解ければ、もっと儲かるのに」
「地球温暖化は、新たなビジネスチャンスだ」

氷の下の資源争奪戦に明け暮れる石油メジャー、水と農地を買い漁るウォール街のハゲタカ、「雪」を売り歩くイスラエルベンチャー、治水テクノロジーを「沈む島国」に売り込むオランダ、天候支配で一攫千金を目論む科学者たち……。
温暖化「後」の世界を見据えて、実際に気候変動を利用して「金持ち」になるべく行動を起こしている国家、企業、人物を世界24か国で徹底取材。
日本人だけが知らない地球温暖化ビジネスの実態とは。

ニューヨーカー、ウォール・ストリート・ジャーナル、ネイチャー、GQ、ワイアード、タイム……絶賛の超話題書、ついに日本上陸。

「地球を「売り物」にする人たち」

⇒バックナンバー一覧