世界市場が落ち着きを取り戻すなか、
なぜ日本だけが取り残されるのか?
足もとの世界の金融市場における株式や為替などの展開は、一時期の不安定な状況からだいぶ落ち着きを取り戻している。その背景には、サウジアラビアやロシアなど主要産油国が生産維持で合意したことにより原油価格が反発していること、ECBや日銀の金融緩和策維持の方針が明らかになったことなどがある。
また、米国のFRBは3月の定例委員会で利上げを見送り、今後の金利引き上げ回数が2回程度にとどまることを示唆した。昨年12月時点の4回の利上げ予想が2回に引き下げられたことは、投資家に大きな安心感を与えた。そうした要因で主要投資家の心理状況は改善し、欧米や中国など主要な株式市場は堅調な展開になっている。
そんななか、わが国の株式市場は低迷が続いている。欧米や中国など主要株式市場の動きから取り残された格好だ。わが国の株式市場にモメンタムが出ない理由の1つは、昨年までの円安・ドル高の傾向が変化していることがある。
2011年秋口まで続いた超円高の動きは、その後、堅調な米国経済の動向を反映して円安・ドル高の方向に動き始めた。それに伴い、自動車などわが国の主力企業の業績は大きく改善し、アベノミクスの経済政策効果もあり、株価を押し上げることになった。
しかし、昨年末にかけてのドル高・原油安の影響で、米国の製造業の業績懸念が浮上し、少しずつ為替市場の動向に変化が生じ始めた。
日銀はマイナス金利にまで踏み込み、円高の流れに歯止めをかける試みをしているものの、今のところ、期待されたほどの効果は出ていない。今後、円高がさらに進むようだと、アベノミクスの効果が逆回転し始めることにもなりかねない。
短期的に見ると、為替相場を動かす最も大きな要素は金利だ。一般的に、投資資金は金利の低い通貨から高い通貨へと流れやすく、低金利通貨は弱含みになりやすく、高金利通貨は強含みの展開になりやすい。そのため、為替相場に大きな影響を与えるのは、2つの通貨間の金利差ということになる。過去の相場動向を分析すると、為替の動向は、名目ベースの金利からインフレ率を差し引いた実質ベースの金利に反応することが多い。
ドルと円の実質ベースの金利を見ると、米国のFRBは昨年12月に金利を引き上げたものの、今後の引き上げペースは当初の予想よりもかなり緩やかになるとの見方が有力だ。一方、足もとで米国のインフレ率は少しずつ上昇する気配を見せている。その結果、米国の金利は思ったほど上がらず、消費者物価指数の予想が上がる分だけ、ドルの実質ベースの金利を引き下げることになる。