化粧といえば、外見を美しく引き立たせる、日常生活に欠かせない習慣。昨今では、美しいメイクの下に隠された衝撃の素顔をネット上に公開する女性も多く、改めて化粧のすごさに耳目が集まっている。しかし、化粧は外見を美しく際立たせるだけではない。心や脳、身体にも良い影響を及ぼすことがわかっている。

インストラクターの指導のもと、自立を促すためにメイクは基本的に自分で行う

 資生堂では、1975年から高齢者を対象にした美容教室を通じて、多数の知見とデータを蓄積している。2015年までの40年間で、のべ1800の施設で重ねてきた成果とはどのようなものだろうか?
そのごく一部を紐解いていこう。

 化粧による効果は、当初心理面で立証された。1993年に徳島の鳴門山上病院の要請で資生堂が研究に協力し、同病院によって論文がまとめられた。この研究では、化粧をすることによって、施設入所者の90%の高齢者に表情が明るくなるなどの変化が見られた。化粧をすると、楽しい気分になったり、人に会うときに自信が持てたりする。そんな心理面におよぼす効果が立証された。

 実際に美容教室に立ち会ってきた資生堂の新規事業開発室マネージャーで医学博士でもある池山和幸氏はこう証言する。「いつもワイワイガヤガヤと、とにかくみなさん明るくなるんです。美容教室の後は、『結婚したい』『誰かいい男いないかしら』『仕事の面接に行きたい』など、いつも前向きな声があがります」。身だしなみに関して自分ではほとんど何もできなかった方が、自ら髪の毛を梳かし、よそ行きの洋服に着替えて継続的に参加するようになった例もあるとか。

 何らかの理由で化粧をやめていた高齢者が再び化粧をすることによって、前向きな気持ちを取り戻していく。「代替療法と呼ばれるものはいろいろありますが、化粧はきれいになったという変化がすぐ表れるし、『きれいになったね』など、周囲のリアクションも得られるので、効果がすぐにわかる」と池山氏。

 自信を持つこと、周囲から認められることが心理面におよぼす影響は大きいといえるだろう。また、マッサージや催眠療法、リラクぜーション法など代替療法は数多あるが、効果の見えにくいものがほとんど。その点でも化粧療法のわかりやすさは注目に値する。