小泉今日子をフィチャーした雑誌の売り切れ騒ぎに、山口智子の「子どもを生まない人生」発言が大きな話題となった背景には、アラフィフ世代の“わかりにくい悩み”がある? 日本文学研究者で、『小泉今日子はなぜいつも旬なのか』(朝日新聞出版)の著者でもある助川幸逸郎氏が、小泉今日子や山口智子の発言が、なぜこれほどまで熱狂的に支持されるのか、その背景を探ります。
2016年2月4日――小泉今日子は満50歳の誕生日を迎えました。その同じ日、『MEKURU』第7号「小泉今日子特集号」が書店に並びます。この冊子を、人々は争うように買い求めました。
アマゾンなどのネット系書店でもリアル書店でも完売。一時はネットオークションで定価の数倍の値がつきました。増刷後も勢いは止まらず、アマゾンで書籍部門全ジャンルを通じての1位を獲得。リアル書店でも再び品切れになるケースが相次ぎました。
『MEKURU』の「小泉今日子特集号」は、どうしてここまで支持されたのでしょうか?
『MEKURU』の売れ行きが注目を集める中、『FRaU』3月号が発売されました。そこに掲載されていたのが「山口智子ロングインタビュー」です。この記事も各メディアから注目され、多くの女性の共感を呼びました。その中で山口智子は、「子どもを産まない人生」を意識的に選択したと告白。この山口の発言に触れて、「これをきっかけに“子なしハラスメント”が終わるのでは」と期待を口にする40代半ばの女性もいたとか(「女性セブン」3月10日号による)。
山口智子は、1964年生まれ。1966年生まれの小泉今日子とほぼ同世代といえます。『FRaU』に載った山口智子の言葉に引きつけられた人々は、彼女と年齢の近いアラフィフ女性が中心でした。『MEKURU』の「小泉今日子特集号」にも、この世代がもっとも強烈に反応しているようです。
この世代は、20歳前後でバブルを経験、「仲間に自慢できるクルマやバッグ」を買うよう仕向けられました。特に女性は「男女雇用機会均等法」が施行され、労働環境が劇的に変化する過程を経験しています。「結婚」や「出産」は、「するのが当然」と幼児期にすり込まれ(アラフィフ世代が子ども時代を送った1970年代、「専業主婦率」は空前絶後の高さに達していました)、同時に「キャリア」も手に入れなければ褒めてもらえそうにない。そんな板挟みに遭いながらも、「『出産』と『キャリア』の両立なんて無理」という「弱音」を、この世代の女性は口にしません。
ブランド品をそろえること。ブランド品と同じような感覚で「出産」や「キャリア」を求めること。アラフィフ世代の女性にとって、そこから降りるという選択は屈辱です。そんなまねをすれば、自分の負けを認めることになってしまいます。