2017年4月に予定される消費税10%への引き上げに先送り論が浮上している。国内景気や世界経済の変調で、増税できる経済環境にないとの意見が政府関係者や識者から次々と出てきているのだ。
安倍晋三政権は、世界経済について有識者と意見交換する「国際金融経済分析会合」を開催し、ノーベル経済学賞受賞者であるジョセフ・スティグリッツ氏、ポール・クルーグマン氏らを招聘して見解を求めた。彼らは、「現在のタイミングでは消費税を引き上げる時期ではない」と述べ、「金融政策だけでは限界がある。次に財政政策をとることが重要だ」と、安倍政権に財政出動を促した。安倍首相は「大変良い示唆をもらった」と発言した。増税延期の「空気」は、確実に醸成されつつあるといえる。
増税支持イコール
財務省の考えの代弁ではない
この連載では、増税を断行し、若者に対して「将来に負担を先送りしない」という強いメッセージを打ち出すべきだと主張した。これはどの政党も出していない新しいメッセージである。選挙を前に「言いにくいこと」だが、民進党が安倍政権との違いを出したいならば、若者に向けてあえて言うべきだと考える(第126回・4p)。
増税への支持を表明すると、「財務省の代弁者」と批判される(第37回)。しかし本稿は、財政学者の専門的な議論を紐解きながら、財務省の代弁者にならない、民進党が打ち出すべき「若者へのメッセージ」を具体的に考えてみたい。それは、財務省が財政再建のために「受益者負担」を振りかざし、「特定の人しか受けられないサービス」の審査を厳格化するほど、増税に対する国民の嫌悪感を増大させてしまい、財政再建が遠のく結果になる。むしろ、「共助」の考え方に基づく「すべての人がサービスを受けられる」政策を打ち出して、格差を解消し、国民の増税への支持を取り戻すことが財政再建の実現には必要だということだ。
斜陽産業の延命策は中止して
「痛みを伴う財政再建、構造改革」を断行すべし
筆者は、「失われた20年」と呼ばれた期間の、最初の8年間を商社マンとしてビジネスの現場に身を置いた。そして、1年間の浪人を経て、次は学者として10年以上政治・官僚の側の動きを見てきた。「失われた20年」こそ、筆者の社会人としての人生そのものだ。
20年を振り返れば、「景気対策」という財政出動・金融緩和が何度も繰り返されてきたが、それは建設業や輸出産業など「斜陽産業」の延命策を続けていたに過ぎなかった。しかし、斜陽産業の延命策からは、日本経済の復活につながる新しいものはなにも生まれてこなかった。斜陽産業は、延命策が切れた時、元の瀕死の状態に戻るだけで、新たな延命策を求めるだけだった。時の政府はその求めに応じて、更なる景気対策を行った。結局、「カネが切れたら、またカネが要る」の悪循環を繰り返した結果が、先進国最悪の巨額の財政赤字なのである。