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日本に巣食う「学歴病」の正体

なぜベンチャーは学歴よりも
「学歴の価値」を重視するのか?

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第14回】 2016年4月12日
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ベンチャー企業の新卒採用は
「学歴重視」へと傾き始めたのか?

成長しているベンチャー企業の多くは学歴重視の新卒採用を進めている。彼らが真に求めているのは、学歴よりも「学歴の価値」と言えそうだ

 今回は、成長を続けるベンチャー企業・株式会社ケーエムケーワールドの創業経営者である車陸昭氏(44)に、「学歴と新卒採用」についての考えを聞いた。車氏は、こう明言する。「新卒の採用は学歴だけで判断することはしないが、学歴を重んじた採用は行っている」「大企業の“学歴を重視した採用はしない”というのは120%タテマエだ」と――。

 車氏はIT業界で社員の採用に強いこだわりを持つことで知られ、メディアに登場することも少なくない。筆者はそんな車氏に関心を持ち、2010年から5回ほど取材を行ない、氏の意見を聞いてきた。現在、同社の役員の最終学歴は早稲田大が2人、法政大が1人。社員の中には上智、青山学院、学習院、明治大などの卒業者が多くいる。

 車氏はかつて勤務した大手音響機器メーカー・ケンウッド(1995年入社)において、学歴を重視した採用が行われていたことや、高学歴な社員が高い業績を上げる傾向があるという現実を、目の当たりにした。自らが経営するケーエムケーワールドでも、新卒採用における「学歴」の意味や価値を常に考え、改善を続けている。同社は創業から15年目を迎え、売上高が10億円を超え、安定成長期に入ったと言える。

 車氏の話を聞くと、当連載で筆者が問題提起してきた「学歴病」を解決するための1つの方策が見えてくる。


――新卒の採用を、学歴という観点からどのように進めていますか。

株式会社ケーエムケーワールド社長の車陸昭氏

 大企業は経営体力があるので、新卒を「全員大卒」で雇うこともできるでしょう。しかし当社には、そこまでの体力はありません。IT業界では、人材育成に時間がかかるのです。たとえば、システム開発をするエンジニアとして新人を雇い、ある程度のレベルに育てあげるのに、3~5年は必要かと思います。

 そのようなことを踏まえ、エンジニアなどとして新卒を雇う場合、学歴については少なくとも2つの観点から採用しています。

 1つは専門学校卒の人、もう1つは大卒の人。専門学校卒の新人には、即戦力として仕事をしてもらうことを期待しています。そのような力を十分身に付けた人を面接試験などで見定めて、内定を出します。

 大卒の人には、4~5年以内に1人前になってほしいと思っています。実は彼らは、入社後しばらくは、専門学校卒の人と比べて仕事をするスピードが遅く、精度は低い。これは、大学でITを専門的に学んでいないことに大きな理由があると思います。


 躍進するベンチャー企業の1つの特徴が、ここにある。筆者の取材経験を基にして言うと、多くのベンチャー企業は売上高10億円が見え始めた時期に、いわゆる「10億円の壁」にぶつかり勢いを失う。売上高5~8億円で足踏みをして、やがて「名もなき中小企業」になっていく。その後、倒産や廃業する企業は後を絶たない。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


日本に巣食う「学歴病」の正体

 今の日本には、「学歴」を基に個人を評価することが「時代遅れ」という風潮がある。しかし、表には出にくくなっても、他者の学歴に対する興味や差別意識、自分の学歴に対する優越感、劣等感などは、今も昔も変わらずに人々の中に根付いている。

たとえば日本企業の中には、採用において人事が学生に学歴を聞かない、社員の配属、人事評価、昇格、あるいは左遷や降格に際しては仕事における個人の能力や成果のみを参考にする、という考え方が広まっている。しかし実際には、学歴によって選別しているとしか思えない不当な人事はまだまだ多く、学閥のようなコミュニティもいまだに根強く存在する。学歴が表向きに語られなくなったことで、「何を基準に人を判断すればいいのか」「自分は何を基準に判断されているのか」がわかりずらくなり、戸惑いも生まれている。こうした状況は、時として、人間関係における閉塞感やトラブルを招くこともある。

 これまでの取材で筆者は、学歴に関する実に多くのビジネスパーソンの悲喜こもごもを見て来た。学歴に翻弄される彼らの姿は、まるで「学歴病」に憑りつかれているようだった。学歴は「古くて新しい問題」なのだ。本連載では、そうした「学歴病」の正体を検証しながら、これからの時代に我々が意識すべき価値基準の在り方を考える。

「日本に巣食う「学歴病」の正体」

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