8月の暑い盛りに蕎麦の種は蒔かれました。秋に白い花が咲き、蕎麦の実が付きます。

 茨城の“金砂郷”で宝石のごとく結実する蕎麦に触発された人がいました。金砂郷に咲く白い花は、蕎麦屋のオーラを育てます。

(1)店のオーラ
「蕎麦のルイ・ヴィトン」に魅入られ

 “蕎麦のルイ・ヴィトン”、茨城の金砂郷で獲れる常陸(ひたち)秋蕎麦はそう呼ばれます。

 蕎麦の収穫量は北海道がダントツの1位、次いで長野、山形、福島の順で、5位が茨城です(2008年統計)。数ある蕎麦の中でもルイ・ヴィトンに例えられるのは、その茨城の小さな地域「金砂郷」のものだけです。

 その金砂郷に魅入られて、手打ちの階段を駆け上ってきた人がいます。流山「すず季」の亭主、鈴木宏富(ひろとみ)さんです。

流山「すず季」<br />――“蕎麦のルイ・ヴィトン”を味わう幸福感
金砂郷の蒔き種は別名・黒いダイヤモンドともいわれ、大事に1年間保存します。

 僕は、去る8月19日に鈴木さんの蕎麦栽培の種蒔きに行きました。手作業の手狩り天日干しの貴重な体験させてもらおうと思ったのです。鈴木さんは、数年前から金砂郷の畑を借りては、常陸秋蕎麦を作っています。

 この日に種を蒔き、10月末には刈り取りをします。

 この間、蕎麦の白い花に心を打たれ、、その花から蕎麦が結実するまでを僕は見ることになりました。

 そして、12月末にその蕎麦を打ってもらうことになります。ルイ・ヴィトンの種がルイ・ヴィトン蕎麦になり、幸運にも最初に僕はそれを味わうことになります。

流山「すず季」<br />――“蕎麦のルイ・ヴィトン”を味わう幸福感
可憐な白い花が金砂郷に咲きます。その花を押しのけるように蕎麦が結実します。

 鈴木さんはいわゆる出前もする町蕎麦屋の3代目でした。

 2代目の父親が流山の初石に移ってきてからも、20代半ばまで忙しく店の手伝いに追われていました。

 「親父が割烹とか寿司屋が好きで、よく連れて行ってもらいました」

 鈴木さんは父親に美味しい店に連れて行ってもらうたびに、自分の中で手打ちの夢が膨らんでいったといいます。

 カウンター越しに客と語らいながら料理を出し、手打ち蕎麦を味わってもらう、そんな店をイメージしていました。

 ある日、千葉県柏市の「竹やぶ」に行きます。衝撃が体に走ったといいます。