ファイナンス理論によれば、100日連続で上昇を続けた株であっても、101日目に上昇するか下降するかは、まったく確率的に等しい。世界中の投資のプロたちが前提にしている「ランダムウォーク理論」とは何なのか? そして、なぜ「デタラメ」であるにもかかわらず、「予測」が可能なのだろうか?

年間500件以上の企業価値評価を手がけるファイナンスのプロ・野口真人氏の新著『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』のなかから紹介していこう。

市場はデタラメ。だから予測できる。

前回の記事では、リスクとは「過去のデータのばらつき」として考えられるということを確認した。この「ばらつき」は、統計学で言うところの標準偏差(Standard Deviation)にほかならない(標準偏差とは何なのかということはひとまず後回しにしよう)。

ここで重要なのは、「不確実性としてのリスク」の大きさが、統計学的な数値として可視化できるということだ。

僕の最新刊『あれか、これか—「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』で扱った4つのノーベル賞理論(MM理論や現代ポートフォリオ理論、CAPM理論、ブラック・ショールズ式)の登場にとっても、このリスク定量化の考え方は欠かせないものなのである。

「株価のリスクを標準偏差として表現する」という発想は、実のところ、それほど古くからある考え方ではない。経済学自体が人類の歴史に比べると、まだまだ非常に若い学問なのはたしかだが、ファイナンス理論はその経済学の中でも最若手の分野だと言っていい。

20世紀の中盤ごろまで、いわゆる金融市場はまともな市場とは見なされていなかった。ただの「カジノ」だというわけだ。つまり、株価の動きには経済学の理論が当てはまる余地はほぼないと考えられていたのだ。

近代経済学の祖であるジョン・メイナード・ケインズ(1883~1946)ですらも、「金融市場における投資家の行動パターンは『美人投票』である」と語った。

ここでいう美人投票とは、最も票数の多かった候補者に投票した人が賞金を得るというゲームのことだ。このゲームで賞金を得るには、「自分が誰を美人だと思うか」ではなく、「ほかのみんなが誰を美しいと思うか」の予想が重要になる。誰もがそうした思惑の下で投資をしており、その結果が相場にほかならないというわけだ。