また、一方でいまだに多く見られるのが、「株価チャートの動きは研究すれば予測できる」という人たちである(いわゆるチャーティストの立場)。「今日上がった株は明日下がる」「大きく値下がりした翌日は値上がりする」「2日連続で下げると次は上がる」などなど、これまで多くの人が膨大な時間と労力を費やして「株必勝法」の研究にいそしんできた。

書店に行くと、いまだにその種の本や雑誌を目にすることができる。

ここでの目的はチャーティストの論破ではないので、これ以上は深く立ち入らないが、ファイナンス理論の祖の1人であるハリー・マーコウィッツはまったく違った考え方を示した。

1952年、シカゴ大学の学生だった彼は、博士論文のテーマに株式を選び、「株価の動きは、ルーレットやサイコロのように、確率論的にランダムに決まる」と結論づけたのである。少々極端な例だが、ちょっと考えてみてほしい。

【問題】
株式Wは100日連続で株価が上がっている。このとき、翌日(101日目)の株価は、上がる可能性と下がる可能性、どちらが高いか?

市場参加者のうちの大半が「明日も上がる」と答えるだろう。しかし、マーコウィッツは「上がる確率」と「下がる確率」はまったく同じだと考えた。たとえば、サイコロが10回連続で「1」の目になったとしても、11回目に「1」が出る確率は高くも低くもならない。それと同じように、株価の将来の動きも、過去の動きには一切影響を受けず無秩序(ランダム)に推移するのである。

このでたらめな動きはランダムウォーク(Random Walk)と呼ばれる。日本語では「酔歩」などと訳されたりもするが、まさに酔っ払っている人がどこに行くかの予想がつかない状態と同じだ。

なお、この考え方の背景には、19世紀のイギリスの植物学者ロバート・ブラウン(Robert Brown:1773~1858)が提唱した「ブラウン運動」がある。ブラウンは、花粉から出た細かな粒子が溶媒中で不規則(ランダム)に動く現象に気づいた。のちに、この運動の正体は、媒質の熱運動による物理学的事象にあることをアインシュタインが発見したが、マーコウィッツは株価の動きもこのブラウン運動と似たようなものではないかと考えたのだ。

過去のチャートの動きからの株価予測は不可能だという意味で、このランダムウォークはファイナンスの中核理論として受け入れられている。