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経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

もはや日本で増えない設備投資をそれでも増やす法

熊野英生・第一生命経済研究所経済調査部 首席エコノミスト

熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]
【第207回】 2016年4月28日
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日本経済成長のために
「設備投資が必要」は本当か?

日本の経済成長率を加速させるためには、設備投資の増加が不可欠だ。しかし、その定説は本当に今の日本に当てはまるのか

 日本の経済成長率を加速させるためには、設備投資の増加が不可欠である。特に経済の好循環を考えるときは、企業が稼いだ収益が国内設備投資に振り向けられてこそ、内需拡大が力強さを増す。裏を返せば、これまでは企業収益が増えても、国内設備投資が増えないので、内需が弱々しかったとも言える。

 こうした言い分は、マクロ的な観点に立ったときの成長条件なのであるが、個々の企業にとっての合理性と必ずしも一致しない。たとえば、企業経営者が株主から高い利益率を追求することを求められているとき、経営者は国内での設備投資を増やそうとするだろうか。人口が趨勢的に減少していく国内ではなく、海外事業を拡大することでROE(株主資本利益率)8%以上を目指すことになる。国内に設備投資を増やしたいという政策的な意図とコーポレート・ガバナンスの強化は、必ずしも一致しないのである。

 さらに言えば、日本のような成熟した経済では、もはや設備投資を増やして供給力を強化することの必要性が薄れている。国内設備投資が実質GDPに占める割合は、1990年代初頭からほぼ一定で推移しており、ここにきて低下しているわけではない。総固定資本形成対GDPで見ると、先進国はおおむね16~22%程度で推移している。日本はG7諸国の中でまだ高い方である。経済が成熟すると、それほど設備投資は増えず、供給能力を思うように増やせなくなるという宿命があるように感じられる。

 つまり、「成長加速のために設備投資が必要だ」という需要サイドの理屈は、成熟化した経済では非常識化する。供給能力の増強についての必要性が薄らぐという供給サイドの事情によって、成長力は制約されるということだ。

 個々の企業にとっては、有形固定資産残高を増やさなくても、研究開発や人材投資を増やす方が収益性を中長期的に高めることに貢献する。事業拡大をスピーディに進めたければ、M&Aを行うという方法もある。「設備投資が必要だ」という発想自体が、すでに古いパラダイムだという批判も可能である。

 政府やエコノミストたちは、「それでも設備投資は必要である」というマクロの成長観を捨てることができない。筆者もミクロとマクロのジレンマはあるとしても、それを解決したいと思っている。

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熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]

くまの・ひでお/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト。 山口県出身。1990年横浜国立大学経済学部卒。90年日本銀行入行。2000年より第一生命経済研究所に勤務。主な著書に『バブルは別の顔をしてやってくる』(日本経済新聞出版社)など。


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