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上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

なぜ日本にできない財政再建・経済成長が、英国にはできたのか

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]
【第131回】 2016年5月10日
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 ゴールデンウィーク期間中に欧州諸国を歴訪した安倍晋三首相は、G7メンバーの欧州首脳と次々と会談した。首相は、今月下旬に日本・伊勢志摩で開催される主要国首脳会議(G7)で、世界経済を成長軌道に乗せるために、金融緩和、財政出動、成長戦略を柱とする「G7版三本の矢」を提起することに、欧州首脳の理解を得ようとした。

 安倍首相は「三本の矢」の中で、特に「機動的な財政出動」の必要性を訴えた。しかし、マッテオ・レンツィ伊首相やフランソワ・オランド仏大統領から賛意を得たが、アンゲラ・メルケル独首相、ディビッド・キャメロン英首相は、財政出動に慎重な姿勢を崩さなかった。

 メルケル独首相は財政規律を重視する姿勢を強調し、「財政だけではなく、デジタル分野など民間投資のための環境整備が必要」と指摘した。そして、「財政の安定と構造改革を通じて、世界経済を確固たるものにしていく」と主張した。キャメロン首相も、「私は構造改革が非常に重要だと思っている」と述べた。そして「それぞれの国の事情を反映しつつ、政策をバランス良く協力して進めることが重要だ」という考えを示した。

 安倍首相は、記者団との会見で「金融政策、機動的な財政政策、構造改革をそれぞれの国の事情を反映させつつ、バランスよく協力していくことが重要であるという点で、各国首脳と一致できた」と会談の成果を強調した。だが、外交における「一致」とは、お互いのメンツを守り、お互いがそれぞれの国民に向けて説明ができるように、どうとでも解釈できる曖昧なものになるのが常である。

 この連載では、日英の金融政策、財政政策、構造改革を何度も比較してきた。それらの論考を振り返りながら、「政策をバランスよく進める」の解釈が、日英で実は真逆であることを示したい。

キャメロン政権は解散権を封印して、
発足直後から不人気な緊縮財政を断行

 まず、英国キャメロン政権の経済財政政策から振り返る。2010年総選挙の選挙公約でもあった財政再建を実現するために、キャメロン政権は、2010年6月に緊急予算「予算2010(Budget2010)」を発表した。

 日本で緊急な予算編成といえば、景気対策のための「補正予算」などの財政出動のことだ。だが、キャメロン政権の「緊急予算」はそれとは真逆で、公務員給与の2年間の凍結(年間33億ポンド減)、「児童手当」等の給付制度の3年間の凍結(年間110億ポンド減)など、4年で25%の歳出削減(総額300億ポンド減)を断行するものであった。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


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国際関係、国内政治で起きているさまざまな出来事を、通説に捉われず批判的思考を持ち、人間の合理的行動や、その背景の歴史、文化、構造、慣習などさまざまな枠組を使い分析する。

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