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加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

中国共産党が“内部造反者”を過剰に懸念する理由

加藤嘉一
【第76回】 2016年5月10日
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全国党校工作会議で発表された
習近平談話から透ける意図

2015年末、習近平共産党総書記が全国党校工作会議で発表した談話からは、内部造反者に対する過剰な懸念が見て取れる。背景にはどんな危機感があるのか

 「国内外のあらゆる敵対勢力は、しばしば我々の体制や価値観を変えようと企んでいる。我々の姓や名前を改めようと企んでいる。それらが悪質なのは、我々にマルクス主義・社会主義・共産主義に対する信仰を放棄させようと企んでいる点にある。党内における一部同志を含め、一部の人間はこれらの企みに隠されている陰謀に気づいていない。数百年の歴史を経てきた西側の“普遍的価値”になぜ寄り添ってはいけないのか? 西側の一部政治的制度・要素をなぜ参考にしてはならないのか? 受け入れたとしてもそれほど大きな損失はないではないか? なぜそこまで頑なになるのか? このように考える。一部の人間は西側の理論や制度を信奉し、それらこそが金科玉条だと見なし、知らぬ間に西側資本主義というイデオロギーの宣伝者と化しているのだ」

 極めて強い表現に読めるこのセンテンス。2015年12月11日、習近平共産党総書記(以下敬称略)が全国党校工作会議で発表した談話(以下「習近平談話」)の中の一節である。前回同会議が開かれた2008年当時、習近平は中央党校の校長を歴任していた(2007年~2012年)。

 現在は劉雲山・中央書記処書記が務めているが、約8700万人いる共産党員の幹部を育成し、マルクス主義や毛沢東思想に立脚した理論・イデオロギーの研究機関でもある党校(全国に3000以上、研究者や事務員の数は約10万)のトップは、政治局常務委員が兼任することが慣例になっている事実からも、党校という機関・システムが中国共産党の政治にとっていかに重要であるかが理解できる。

 「党校事業は党の事業にとっての重要な構成部分である。党校は我が党のリーダーや幹部を育成するための主なチャネルである」(習近平談話)

 昨年末という時期、全国党校工作会議という内部の場面で発表された習近平談話だが、世に問われたのは今月(2016年5月)に入ってからであった。国家指導者、党・政府機関の分野責任者、業界を代表する知識人などが党の戦略・イデオロギー・政策などを宣伝・主張する際に使うことが多い共産党中央機関刊行物『求是』に掲載された。

 このタイムラグは何を意味しているのか。それほど過去の話ではないとはいえ、約5ヵ月前の談話である。それをこのタイミングで持ち出し、かつ『求是』という共産党中央にとって核心的に重要な刊行物に掲載する意図はどこにあったのか。

 習近平談話が党校というベールに包まれた空間における内部談話であったことを考えれば、一定の時間が経過してから公開するという予定がそもそも組まれていた可能性は否定できない。一方で、この時期における“電撃公開”(筆者注:2016年5月初旬には中国共産党中央にとって特別に重要な政治会議や政治的に重要な記念日・イベントが組まれていたわけではなかった)は、党中央、特に習近平(およびその側近)の昨今の政治情勢に対する懸念と警戒を露呈しているようにも映る。

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加藤嘉一 

1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

 


加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

21世紀最大の“謎”ともいえる中国の台頭。そして、そこに内包される民主化とは――。本連載では、私たちが陥りがちな中国の民主化に対して抱く“希望的観測”や“制度的優越感”を可能な限り排除し、「そもそも中国が民主化するとはどういうことなのか?」という根本的難題、或いは定義の部分に向き合うために、不可欠だと思われるパズルのピースを提示していく。また、中国・中国人が“いま”から“これから”へと自らを運営していくうえで向き合わざるを得ないであろうリスク、克服しなければならないであろう課題、乗り越えなければならないであろう歴史観などを検証していく。さらに、最近本格的に発足した習近平・李克強政権の行方や、中国共産党の在り方そのものにも光を当てていく。なお、本連載は中国が民主化することを前提に進められるものでもなければ、民主化へ向けたロードマップを具体的に提示するものではない。

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