これは決して健康的な状況ではないと筆者は考えます。配信価格すなわち再販価格の決定権がないとされている以上、最終的な価格のコントロールは卸価格をコントロールすることによって行うしかないでしょう。その上で、単行本や文庫本との価格のバランスをどうとるのか、リリース時期をどう考えていくのか、ということが検討されていかなければなりません。

 現在の電子書籍市場は携帯電話というマーケットに限定されたニッチなものです。しかし、アメリカのアマゾンのように、単行本や文庫本(古本も含めて)と並んで電子書籍がリストアップされるようになると、電子書籍マーケットは一気にメジャーなものとなってしまいます。ユーザーすなわち読者から見て、印刷物と電子書籍とが選択可能な具体的な選択肢として提示されるのです。読者が著作物をどのフォーマットで読むことを選択するのか。その基準が今のアマゾンのサイトにおいては「価格の違い」として提示されており、新本、古本と同列に電子書籍を置いたのが今の「キンドル」モデルと言えるのではないでしょうか。

日本にキンドルが上陸したら
価格決定権は出版社の手を離れる

 キンドルが、そのコンテンツ入手の容易性や扱いの簡単さから、従来の印刷物の代替媒体たりうるものとなったとき、間違いなく一定の割合で読者は印刷物からキンドルへ乗換ていきます。

 長年、日本の出版社は上記の再販制度と委託販売制度のもとで、自分たちが売りたい本を売りたい値段で市場に投入する自由を謳歌してきました。もちろん、売れなければ返品の山となりますから、読者側のニーズをにらんでということではありますが、基本的には川上からの視点で流通をコントロールすることができたのです。

 しかし、電子書籍についてはこのような自由は必ずしも保証されないということになるでしょう。仮にアマゾンが日本においてキンドルを大量に販売することができたとき、多くのユーザーがアマゾンから電子書籍を購入することになります。そしてその価格は、アマゾンが売りたい値段、ということになるのです。このような値付けの自由が販売店にある状況は、これまで日本の出版社がほとんど体験することがなかった状況になります。そこで、各出版社は電子書籍を自らの出版活動の中でどのように位置づけ、どのような価格政策を採用していくのか、を考えなければならないのです。

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村瀬拓男 [弁護士]

1985年東京大学工学部卒。同年、新潮社へ入社。雑誌編集者から映像関連、電子メディア関連など幅広く経験をもつ。2005年同社を退社。06年より弁護士として独立。新潮社の法務業務を担当する傍ら、著作権関連問題に詳しい弁護士として知られる。


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