「0」から「1」を生み出す力を日本企業は失っているのではないか? そんな指摘が盛んにされています。一方、多くのビジネスパーソンが、「ゼロイチを実現したいが、どうしたらいいのか?」と悩んでいらっしゃいます。そこで、トヨタで数々のゼロイチにかかわった後、孫正義氏から誘われて「Pepper」の開発リーダーを務めた林要さんに、『ゼロイチ』という書籍をまとめていただきました。本連載では、その一部をご紹介しながら、「会社のなかで“新しいコト”を実現するために意識すべきエッセンス」を考えてまいります。
「慎重派」と「おっちょこちょい」
新入社員には大きくふたつのタイプがいるように思います。
ひとつは、どちらかというとモノゴトに対して慎重でコンサバティブにふるまうタイプ。そして、もうひとつが、「こうあるべきだ」と思ったら、深く考えずにやってしまうタイプ。僕は、後者でした。要するに、おっちょこちょい。若いころは浅はかですから、トラブルを引き起こして、職場に迷惑をかけてしまったことも一度や二度ではありません。何度も怒られては、落ち込んだものです。
今でも、忘れられない失敗があります。
あれは、入社2年目のこと。当時、僕は、トヨタの実験部でコンピュータによる解析を担当していました。解析に使われていたのは、一台1000万円弱もするUNIXワークステーションという特殊なコンピュータ。しかし、間もなくパソコンの時代が来ることは間違いありませんでしたから、僕は、なかば強引にUNIXワークステーションをパソコンに切り替えることにしたのです。
もちろん、単に”新しいもの”に変えたかったわけではありません。
UNIXワークステーションは高価ですので、導入台数が限られるために、解析の回数に制限がかかってしまいます。一方、はるかに安価なパソコンであれば導入台数を増やすことが可能。その結果、自分の興味の赴くまま、納得できるまで解析を繰り返すことができるのです。
ただ、職場の人たちは、あまり乗り気ではありませんでした。現状のままでも仕事は回っているのだから、あわてることはない。もう少し状況を見極めてからでいいだろう、という雰囲気でした。保守的ですが、常識的な判断。しかし、僕はやらずにいられなくて、「任せてください」と押し切ったのです。
ところが、パソコンへの移行完了後、順調に動き出したと思ったころにトラブルが発生。保存していたデータが全部飛んでしまったのです。データを保管するNASという記憶媒体の安定性をきちんと検証しなかったのが原因でした。多大な迷惑をかけ、謝るほかありませんでした。
データの復旧はできなかったので、やむなく残されていた報告書から再度データを入力したり、再計算したりして、データを再現。たいへんな作業でしたが、やるしかない。そんなわけで、おそろしく遠回りをしましたが、どうにかこうにかパソコンへの移行を完了。なんとかなった、というわけです。