今回と次回で、古今の読書人の優れた知恵を掘り起こしてみる。「読書術」「読書法」を主題にした本は膨大にある。いずれも役に立つ知恵を必ず一つは発見できる。少し読んで「これは自分に合わない」と思っても、あきらめずにパラパラと通覧することが必要だ。ななめ読みの技術はここでも応用できるので、速読まではいかずとも、ペンを持って「目を通す」技術を習得するといい。だれかのマネではなく、独自の方法で十分だ(文中敬称略)。

通勤の満員電車は
語学を学ぶのに最適

“効率的な読書術”を、古今の読書人に学ぶ

 通勤通学電車で本を読むことは、評論家・加藤周一(1919-2008)の本に学んだ。

 加藤は東京帝国大学医学部を卒業した内科医だが、在学中から詩と文芸評論を書いていた。1951年にフランスへ医学者として留学しつつ、文芸評論を次々に発表している。のちに医師の仕事をやめ、評論家・編集者として21世紀まで活躍した。平凡社『世界大百科事典』編集長(84年版から2007年版)、東京都立中央図書館館長(88年から95年)も務めた。どのような立場から見ても戦後日本を代表する知識人である。評論家とは本来、加藤周一のような知識人のことをいう。

 1962年に光文社のカッパ・ブックスから『読書術』を出版している。最初に読んだのは70年、高校1年だった。難解な教養書ではなく、軽妙な語り口の大衆的な本だった。おそらく談話を速記したものだろう。評論の文体とはまるで違う。その後、2000年に岩波現代文庫に収録されている。

 この本のなかで加藤周一は、通勤電車限定の読書術を書いている。片道1時間の通勤だとすると、1日往復2時間、月に48時間、年に24日分の時間を電車の中で過ごすことになる。1年のうち1ヵ月は電車の中なのだから、読書に使えば効率的だという趣旨のことを語っている。

 ここで40代の加藤はこう提言する。

1)混雑する通勤電車の中では、ページをめくらなくてもいい本を選べ
2)1冊だけ手に持って電車に乗る
3)受験生なら英単語集、社会人なら他の外国語テキストがいい
4)フランス語ならば動詞の変化表を持ち、1時間暗誦

加藤周一『読書術』(岩波現代文庫、2000年)より