ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む

在職老齢年金制度は労働市場をゆがめ、
労働者の福祉を低下させる

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第84回】 2010年8月28日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage

 「在職老齢年金制度の下では、働くと年金が減ることから、高齢者の就業意欲がそがれる(高齢者の労働供給が減少する)」と前回述べた。以下では、この問題についてさらに詳しく議論しよう。

 前回の図表1、2から、50%限界税率は、かなりの範囲で生じることがわかる。100%限界税率はそれほど多くは生じないだろうが、ありえないわけではない。

 また、年金の絶対額を見れば、賃金がある程度以上だと、年金がゼロになるケースはごく一般的だ。65歳以上になっても、基礎年金しか受給できないのは、さほど稀なケースではない。

 今後もデフレが続くと年金の実質価値が上昇することとなるので、「年金をもらえない」ことがもたらす問題は、いまよりも大きくなるはずである。

在職老齢年金の問題点:低賃金労働をうながす

 ところで、「年金減額が就労意欲をそぐことになるか否か」は、実は自明なことではない。年金が減額されても、就業意欲が影響を受けないということもありうるのである。たとえば、「年金と賃金所得をあわせて一定額を確保したい」と考えられる場合だ。

 この場合に何が生じるかを、数値例で説明しよう。いま、A氏は毎月40万円の生活費が必要なので、40万円の価値があると雇用主に評価される労働を、これまで行なってきたものとしよう。年金受給年齢に達して、毎月20万円の年金が受給できるようになった。しかし、「毎月40万円必要」という事情に変わりはないものとしよう。そこで、これまでと同じ労働を続けるものとする。

 A氏が65歳未満だとすると、前回述べたルールにより、賃金収入が8万円を超える部分について、その半分に等しいだけ年金がカットされる。したがって、40万円の生活費を確保するために、賃金所得32万円を得、年金を8万円受給するわけだ(32万円と8万円の差額の半分である12万円だけ年金を減額される。なお、保険料が変化することの影響は無視する)。A氏にとっては、前と同じだけ働き、前と同じだけの総収入を得ているのだから、事態は一応は変わらない(経済分析の観点から厳密に言うとそうではない。この点は本稿の後半で論じる)。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR


おすすめの本
おすすめの本
消費税だけでは財政再建できない!「日本を破滅から救うための経済学」

経済論争の最大のトピック=デフレ問題から、赤字国債発行の問題点、年金の破綻、消費税増税、円安誘導の為替政策まで、主要論点を網羅。いずれのテーマでも、通説と一線を画す内容に驚愕すること必至。綿密なデータの読み込みに裏付けられた、野口教授のマクロ経済政策論!1680円(税込)

話題の記事

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

------------最新経済データがすぐわかる!------------
『野口悠紀雄 使える!「経済データ」への道』


野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む

突如として世界中を襲った経済危機。激流に翻弄される日本経済はどうなってしまうのか? なすべき対策はあるのか? 100年に1度の未曾有の事態を冷静に分析し、処方箋を提示する野口悠紀雄の緊急連載!

「野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む」

⇒バックナンバー一覧