
年金制度改革を巡り、自民・公明・立憲の3党が修正合意し、氷河期世代を救う「基礎年金底上げ」が、2029年時に判断するとの条件つきで復活した。だが、国民年金の救済だとして厚生年金積立金からの“流用”に反対する声は依然多い。しかし、実態は流用とまではいえないものだ。底上げが必要となる事態をもたらしたのは、制度のひずみと高齢者偏重の政治判断である。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
厚生年金積立金“流用”批判は
的を射ているのか
自由民主党、公明党、立憲民主党の3党が年金制度改革法案の修正で合意し、改革法案は成立した。
この合意により、もともとの法案が提出される際に削除された“基礎年金底上げ”が復活した。ただ、削除前のように実施を確定したものではなく、実際に導入するかは2029年に実施する年金の財政検証を踏まえた上で判断する。
財政検証の結果、基礎年金の給付水準低下が見込まれる場合に底上げ措置を講じるとしている。その際、厚生年金の給付水準が一時的に下がることへの影響を緩和する対応も取るとしている。
なぜ、基礎年金底上げが政府提出法案から削除されたのか。
基礎年金底上げに当たっては、厚生年金勘定から基礎年金への拠出が増える。このことが厚生年金の積立金が国民年金に“流用される”ものとされ、参議院選挙を前にして厚生年金加入者の反発を恐れたため、削除されたのだ。
実際、“流用”はけしからんとする反発の声は、厚生年金加入者である現役世代から上がっている。
だが、“流用”されることで厚生年金側が全て損失を被るかのようにいわれているのは大きな誤解である。“流用”を巡る虚実を明らかにしたい。
そもそも基礎年金の底上げがなぜ必要なのか。公的年金制度の枠組みとともに解説する。
厚生年金加入者は、厚生年金の報酬比例部分と基礎年金を受け取る。国民年金加入者は、基礎年金だけを受け取る。
厚生年金、国民年金それぞれの財政から、基礎年金の給付に必要な金額の半分について(残りの半分は国庫負担)それぞれの加入者数に応じて按分(あんぶん)した金額を基礎年金勘定に拠出し、基礎年金が給付される。報酬比例部分は厚生年金の財政から支払われる。
公的年金制度においては厚生年金、国民年金の財政の積立金が100年後に給付額1年分ほど残るように、公的年金加入者数の減少率と平均寿命の伸び率の合計分に合わせて年金給付を抑制するマクロ経済スライドという仕組みが導入されている。
2024年の公的年金の財政検証における過去30年の経済状況が続くとしたケースの試算では、基礎年金への適用期間が長期化することで、57年には基礎年金の給付水準が実質3割減となる結果が出た。一方、報酬比例部分については、27年度以降マクロ経済スライドを適用しなくても済むと試算されている。
現在40代後半から50代前半の氷河期世代は、非正規社員として働く人たち、現在正社員であっても非正規社員である時期が長い人たちが少なくない。こうした人たちは、老後に基礎年金しか受け取れないか、受け取る厚生年金の報酬比例部分が薄い。
そのため、氷河期世代が年金を受け取り始める30年代半ば以降、抑制が続くことで、この世代が受け取る年金の水準が低くなりすぎてしまう。このままでは、生活保護を受ける人数が増えることは必至である。
そこで、基礎年金と厚生年金の報酬比例部分のマクロ経済スライドの適用期間を一致させ、基礎年金への適用期間を短くする。24年の財政検証の過去30年投影ケースでは、一致させることでマクロ経済スライドの適用は36年度で終了する。適用終了年度が57年度から前倒しされることで基礎年金の最終的な水準は高くなる。
一致させる際に、すでに触れたように厚生年金の積立金からの基礎年金への拠出を増やす。その意味で “流用”というのは間違ってはいないが、それを国民年金救済に全て使われるように捉えるのは実情を反映していない。
なぜなら新たに拠出される資金の9割弱が、厚生年金加入者に支払われるからだ。また、基礎年金を底上げせざるを得ない事態になったのは、制度の欠陥と政治家の高齢者に対する過度な配慮が原因である。
次ページでは、そのメカニズムを解き明かし、“流用”の実態を検証する。