
突然現れた隠し子は遺産相続ができるのか?戸籍上の妻と内縁の妻はどちらが遺族年金をもらえるのか?まるでドラマのようだが、実際に起きたこれらの事件。こうした愛憎劇に、一体どんな判決が下ったのか。顛末をみていこう。※本稿は日本経済新聞「揺れた天秤」取材班著、『まさか私がクビですか?なぜか裁判沙汰になった人たちの告白』(日本経済新聞出版)の一部を抜粋・編集したものです。
死の淵に立った父親の
「隠し子」が発覚
2018年夏、修羅場は出し抜けに訪れた。
東日本にある法人の70代の理事長は脳の病気を患い、病床に伏していた。そこに現れたひとりの見舞客。法人で働くふた回り以上も年の離れた40代の女性だった。
鉢合わせた理事長の長男と長女は、約18年間にわたる父の不貞を知ることとなる。中学3年生になる腹違いのきょうだいがいることも判明した。
家族に不倫を知られ、覚悟を決めた理事長は長年に及んだ関係の清算を決意する。7000万円の支払いを条件にした誓約書を女性に示した。
「今後も認知や入籍を請求しない」「受け取った以外に金銭を求めない」「家族が不仲にならないよう許可を得るまで自宅に行ったり連絡したりしない」――。女性は黙って署名した。
いったんは収束したかに見えた。だが2年後、認知されずにいた子ども本人の意思によって事態は再び動き始める。
子どもにとっての理事長は、幼い頃からずっと週末に家に来てかわいがってくれた父親に違いなかった。