ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法・ゼロイチ
【第5回】 2016年6月3日
著者・コラム紹介バックナンバー
林要 [GROOVE X代表取締役]

孫正義氏を激怒させたPepper元開発リーダーが、
その叱責に学んだ「仕事でいちばん大切なこと」
トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法

1
nextpage

トヨタ自動車で、現場のエンジニアとしてゼロイチの実績を積んだ林要さん。しかし、「職人」にとどまる限り、自分が思い描くゼロイチを実現することができないことに気づいた林さんは、トヨタ自動車で量販車のマネジメントに挑戦しましたが、苦戦。そこで、リーダーシップを学ぶために孫正義氏の後継者育成機関である「ソフトバンクアカデミア」に外部生として参加したのがきっかけとなり、孫正義氏からPepperの開発リーダーを任されることになりました。しかし、そこで孫氏を激怒させてしまったそうです。なぜか?そして、その叱責から学んだ「仕事でいちばん大切なこと」とは何か?林要さんの著書『ゼロイチ』から、その「学び」を抜粋してご紹介します。

孫正義氏と林要氏のツーショット写真。林氏がソフトバンク退職挨拶に訪れたときの一枚(林氏のFacebookより転載)

 

ゼロイチで必ずぶつかる「ジレンマ」がある

 僕は「職人肌」の人間です。
「モノをつくっていたい」「モノに触れていたい」という願望が強い。そして、ひとりでモノづくりに没入しているのが好きなのです。だから、トヨタ自動車でいちエンジニアとして「職人的」にゼロイチをめざすのは、最高に充実した生活でした。このまま「職人として生きていきたい」という思いもありました。 

 しかし、徐々にジレンマも感じるようになっていきました。
 トヨタF1にいたときのことです。僕は、空気力学のエンジニアとして、日々、0.01秒でもタイムを縮めるために知恵を絞っていました。こだわったのは、ゼロイチのアイデアであること。トヨタはF1の新参者ですから、フェラーリなどの歴史ある強豪チームに勝つためには、彼らの模倣をしているだけでは足りない。どのチームも「改善」はしているのだから、それを超えたアイデアでなければ、彼らを上回ることなどできないからです。

 そして幸運にも、僕が考案した部品を実戦投入するたびに入賞することができました。しかし、あくまで単発の好成績。その次のレースでは他のチームも追いついてきますので、1年間を通して勝ち続けるのは至難のワザ。やがて、トップチームとのカベの厚さを痛感させられるようになりました。

 ジレンマを感じるようになったのは、そのころです。
 僕が担当しているのは、空気力学という一分野。しかし、この一分野は単にそれだけで完結するわけではありません。車の周りを流れる空気をデザインするとは、車全体のデザインをイメージすることにほかなりません。逆に言えば、全体のデザインによって空気力学的にも制約を受けるということ。だから、理想的な空気力学を実現するだけでは、他の性能が出なくなるために、やはり勝てません。

 つまり、トータルのプロデュースが必要なのです。そして、そのために試行錯誤するなかで、僕なりの「勝てるレースカー」の全体的なイメージが必然的に出来上がっていったのです。

 ところが、僕はあくまでいちエンジニアにすぎません。何度も、上司に「全体の設計思想を変えるべきだ」と訴えましたが、そんな若造の、自分の立場をわきまえない、業務分掌の範囲を超えたアイデアをまともにとりあってはくれません。それは、技術のトップであるチーフエンジニアの仕事そのものだったのです。

 これがつらかった。そして、悟りました。自分が正しいと思う仕事をするためには、「一職人」の立場にとどまっていてはダメだ、と。ヒト・モノ・カネの差配に影響力をもつマネジメントの立場にならなければ、限定的なゼロイチしか実現できない。当時、30歳前後の僕が、遅ればせながら痛烈に学んだことでした。 

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
まいにち小鍋

まいにち小鍋

小田真規子 著

定価(税込):本体1,100円+税   発行年月:2016年11月

<内容紹介>
簡単で安くて、ヘルシー。ポッカポカの湯気で、すぐにホッコリ幸せ。おひとりさまから共働きのご夫婦までとっても便利な、毎日食べても全然飽きない1〜2人前の小鍋レシピ集!「定番鍋」にひと手間かけた「激うま鍋」。元気回復やダイエットに効く「薬膳鍋」や、晩酌を楽しみたい方に嬉しい「おつまみ鍋」など盛り沢山!

本を購入する
ダイヤモンド社の電子書籍
(POSデータ調べ、11/20~11/26)


注目のトピックスPR


林要(はやし・かなめ) [GROOVE X代表取締役]

林 要(はやし・かなめ) 1973 年愛知県生まれ。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)に進学し、航空部で「ものづくり」と「空を飛ぶこと」に魅せられる。当時、躍進めざましいソフトバンクの採用試験を受けるも不採用。 東京都立科学技術大学大学院修士課程修了後トヨタに入社し、同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクトを経て、トヨタF1 の開発スタッフに抜擢され渡欧。「ゼロイチ」のアイデアでチームの入賞に貢献する。帰国後、トヨタ本社で量販車開発のマネジメントを担当した際に、社内の多様な部門間の調整をしながら、プロジェクトを前に進めるリーダーシップの重要性を痛感。そのころスタートした孫正義氏の後継者育成機関である「ソフトバンクアカデミア」に参加し、孫氏自身からリーダーシップをたたき込まれる。 その後、孫氏の「人と心を通わせる人型ロボットを普及させる」という強い信念に共感。2012 年、人型ロボットの市販化というゼロイチに挑戦すべくソフトバンクに入社、開発リーダーとして活躍。開発したPepper は、2015 年6 月に一般発売されると毎月1000 台が即完売する人気を博し、ロボットブームの発端となった。 同年9 月、独立のためにソフトバンクを退社。同年11 月にロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立。新世代の家庭向けロボットを実現するため、新たなゼロイチへの挑戦を開始した。


トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法・ゼロイチ

「0」から 「1」を生み出す力を日本企業は失っているのではないか? そんな指摘が盛んにされています。一方、多くのビジネスパーソンが、「ゼロイチを実現したい が、どうしたらいいのか?」と悩んでいらっしゃいます。そこで、トヨタで数々のゼロイチにかかわった後、孫正義氏から誘われて「Pepper」の開発リー ダーを務めた林要さんに、『ゼロイチ』という書籍をまとめていただきました。その一部をご紹介しながら、「会社のなかで“新しいコト”を実現するために意 識すべきエッセンス」を考えてまいります。

「トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法・ゼロイチ」

⇒バックナンバー一覧