安倍晋三首相は、来年4月に予定されていた消費税率の10%への引き上げを再延期する意向だ。世耕弘成官房副長官は後に否定しているが、その理由として、「世界経済がリーマンショック直前のような状態にある」ことを挙げている。
安倍首相は、先進7ヵ国首脳会議(伊勢志摩サミット)においても、現状がリーマンショック直前と似ているので、危機を食い止めるために財政拡大が必要であるとの議論を展開した。そして、サミット後の会見では、リーマンショック直前との類似を、何度も繰り返し指摘した。
しかし、以下に述べるように、現状はリーマンショック直前とはまったく違う。
したがって、「何もしないとリーマンショックのようなことが起こるから、消費税増税延期や財政拡大が必要だ」というロジックは成り立たない。
需要を急減させたリーマンショック
ケインズ政策が必要な典型的局面だった
リーマンショックが日本経済に大きな打撃を与えたのは、輸出が急減したからだ。
それまでの日本経済は、輸出主導の経済成長を続けていた。
図表1に示すように、リーマンショック直前までは、貿易収支の黒字が年間10~15兆円という状態が継続していた。
それが、リーマンショックで5兆円程度に急減したのである。
このように、リーマンショックとは需要の急減である。同様の事態が世界各国を襲った。
こうした事態に対しては、需要を追加することが必要であり、そのために財政拡大を行なうのは、ごく自然な政策であった。リーマンショック直後は、ケインズ政策が必要とされる典型的な局面だったのである。
だから、「リーマンショックのような事態が起きれば消費税増税は行なわない」という考え自体は、正当化できる。
ところが、図表1に見るように、ここ数年、貿易収支は赤字が継続していた。リーマンショック前とは、状況はまったく違う。
◆図表1:貿易収支の推移
最近、貿易収支が黒字に転じている。しかし、これは原油価格低下などによって輸入価格が低下していることによるものであり、リーマンショック前に貿易収支の黒字が続いていたのとはまったく違うメカニズムによるものだ。