ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて

世界経済は「リーマン直前」とまったく似ていない

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第64回】 2016年6月2日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage

 安倍晋三首相は、来年4月に予定されていた消費税率の10%への引き上げを再延期する意向だ。世耕弘成官房副長官は後に否定しているが、その理由として、「世界経済がリーマンショック直前のような状態にある」ことを挙げている。

 安倍首相は、先進7ヵ国首脳会議(伊勢志摩サミット)においても、現状がリーマンショック直前と似ているので、危機を食い止めるために財政拡大が必要であるとの議論を展開した。そして、サミット後の会見では、リーマンショック直前との類似を、何度も繰り返し指摘した。

 しかし、以下に述べるように、現状はリーマンショック直前とはまったく違う。

 したがって、「何もしないとリーマンショックのようなことが起こるから、消費税増税延期や財政拡大が必要だ」というロジックは成り立たない。

需要を急減させたリーマンショック
ケインズ政策が必要な典型的局面だった

 リーマンショックが日本経済に大きな打撃を与えたのは、輸出が急減したからだ。

 それまでの日本経済は、輸出主導の経済成長を続けていた。

 図表1に示すように、リーマンショック直前までは、貿易収支の黒字が年間10~15兆円という状態が継続していた。

 それが、リーマンショックで5兆円程度に急減したのである。

 このように、リーマンショックとは需要の急減である。同様の事態が世界各国を襲った。

 こうした事態に対しては、需要を追加することが必要であり、そのために財政拡大を行なうのは、ごく自然な政策であった。リーマンショック直後は、ケインズ政策が必要とされる典型的な局面だったのである。

 だから、「リーマンショックのような事態が起きれば消費税増税は行なわない」という考え自体は、正当化できる。

 ところが、図表1に見るように、ここ数年、貿易収支は赤字が継続していた。リーマンショック前とは、状況はまったく違う。

◆図表1:貿易収支の推移

(資料)財務省

 最近、貿易収支が黒字に転じている。しかし、これは原油価格低下などによって輸入価格が低下していることによるものであり、リーマンショック前に貿易収支の黒字が続いていたのとはまったく違うメカニズムによるものだ。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

------------最新経済データがすぐわかる!------------
『野口悠紀雄 使える!「経済データ」への道』


野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて

アメリカが金融緩和を終了し、日欧は金融緩和を進める。こうした逆方向の金融政策が、いつまで続くのだろうか? それは何をもたらすか? その先にある新しい経済秩序はどのようなものか? 円安がさらに進むと、所得分配の歪みはさらに拡大することにならないか? 他方で、日本の産業構造の改革は遅々として進まない。新しい経済秩序を実現するには、何が必要か?

「野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて」

⇒バックナンバー一覧