米国の政治や選挙の仕組みは日本とは大きく違う。ジョージ・ワシントン初代大統領が、分かりやすく解説する。
Q 大統領ってとても偉いんでしょう?
A 米国の大統領というと、「世界一の権力者」というイメージを持っている人もいるかもしれない。しかし、経験者として言わせてもらえば、実はそれほど大きな権限を持っているわけではない。
わが国は連邦国家であるから、各州の権限を守るため、大統領に強い力を与え過ぎないように制度が設計されている。幾つか例を挙げよう。まず、大統領は法案や予算案を議会に提出することはできない。米国では議員が全ての法案を提出し、予算案も議会で作成される。
大統領は後述するように間接選挙によって国民から選ばれる。日本のように議会で多数を占める党から選ばれるのではないため、議会の上院と下院が共に野党で占められることもある。私から数えて44代目のバラク・オバマ大統領は、上下院が野党・共和党で占められているため、なかなか法案が通らず苦労しているようだ。また、日本の首相のように議会を解散させることはできないが、議会には弾劾裁判によって大統領を罷免する権限がある。
愚痴ばかり並べてしまったが、われわれ大統領にも大きな権限がある。行政権だ。次官補クラス以上の4000人近くの政府高官をわれわれ大統領が任命できる(閣僚の人事は上院の承認が必要)。だから、大統領が交代すると、首都ワシントンD.C.では4000人規模の異動が行われることになるのだ。
もう一つ、大統領に与えられている権限として拒否権がある。議会を通過した法案への署名を拒否する権利だ。ただし、上下院でそれぞれ3分の2以上の多数で再可決することで議会は法案を成立させることができる。大統領と議会はこのようにしてけん制し合っている。
ところで、大統領の年収を知っているか? オバマ氏が40万ドル(約4480万円)程度といわれている。大企業の社長と比べれば安いものではないか。ただ、引退後は年間約20万ドル(約2240万円)の年金をもらえるほか、ビル・クリントン氏のように、自伝の執筆で1500万ドル(約16億8000万円)を超える巨額の収入を得ている元大統領もいる。
Q 二大政党の民主党と共和党の違いは?
A 大ざっぱに言えば、民主党はリベラルで、共和は保守(反リベラル)ということになる。社会福祉の充実など政府は大きな役割を果たすべきだと主張する民主に対し、共和は国民の自主・自立を重視し、政府による介入をできるだけ小さくする「小さな政府」を志向している(下表参照)。
ただし、これらの主義・主張は参考程度と考えてくれ。両党とも党内に保守派とリベラル派がいて意見が対立することもある。また、日本の政党と違って米国の政党には党議拘束(採決の際に党の方針に党員を従わせること)などない。議員が所属する党の政策に対して反対票を投じることも珍しくないのだ。
ちなみに、両党のシンボルマークのゾウとロバは、19世紀に描かれた風刺画が基になっている。