トランプ人脈 全解剖#9Photo:Pool/gettyimages

ドナルド・トランプ米大統領が着々と目玉政策を実現させている。日本をはじめ各国との関税交渉が合意などの進展を見せているほか、「一つの大きくて美しい法案(OBBB法)」も成立させた。トランプ氏は共和党の造反を抑え込み、政権の基盤固めに成功しているように見える。特集『トランプ人脈 全解剖』の#9では、OBBB法の審議過程から、トランプ氏と議会や共和党の有力派閥との最新の力関係をひもとく。(共同ピーアール総合研究所主任研究員 渡辺克也)

OBBB法が目標の独立記念日に成立
着々と目玉政策を実現するトランプ大統領

 日米関税交渉が7月22日、合意に至った。米国の関税政策を巡っては、ドナルド・トランプ大統領が“暴走列車”のように世界に関税をかけようとしているという論調がある。しかし、この世界観は誤りだ。

 一連の関税政策はトランプ氏の独断専行ではなく、政権を取り巻くキーパーソンたちがそれぞれ思惑を持って推進している(本特集#7『トランプ関税「交渉余地」はどこにある?関税を“3層構造”に分解すると見えてくる、キーパーソンと米国の思惑』参照)。

 また、政権に多数の人材を輩出しているシンクタンクも、政策文書で関税をはっきりと掲げている。トランプ氏もむげにすると組織のサボタージュを招きかねないのだ。よって、米側のボトムラインと思われる関税率10%までは譲歩しなかったものの、トランプ氏はキーパーソンの思惑をある程度満たしながら交渉を取りまとめてきた。

 日本ではトランプ氏の政権運営基盤が脆弱だという見方も絶えない。だが、実際には、トランプ氏は共和党の反発を抑え込み、目玉政策を着々と実現させている。

 その筆頭が、7月4日に成立した「一つの大きくて美しい法案(OBBB法)」だ。トランプ減税やメディケイド(公的医療保障)削減などを含む、この大規模な歳入・歳出法案を巡っては、共和党内でも議論が紛糾していた。トランプ氏は米国独立記念日(7月4日)までの成立を目標に掲げていたが、達成困難という見立てが日本では主流だった。

 しかし、トランプ氏はその予想を覆して成立にこぎ着けた。第1次トランプ政権で要職に就いていたある元幹部は、「日本のメディアは、トランプ氏のリーダーシップを過小評価している」と評する。

 本特集#3『米議会「重要人事」から読み解くトランプ政権、“出世頭”と政権安定運営の“キーマン”の名前』でも指摘したように、上院院内総務や下院議長の選出経緯を踏まえると、トランプ氏の米議会に対する指導力は実は大きい。

 OBBB法成立までの審議経緯をひもとくと、トランプ氏と議会や共和党の有力派閥との最新の力関係が見えてくる。次ページでは、OBBB法の成立を巡る権力闘争の全貌を読み解いていこう。