ドラッカーを理解し尽くせば、わかりやすく朗読できる

仲谷 『もしイノ』って、ストーリー自体はすごく明快ですよね。主人公の夢(岡野夢)はおとなしくて、親友の真実(児玉真実)は行動的で頭も切れる。最初、夢は真実についていくだけだったけれど、やがて夢自身が頑張る番がやってくる。AKBの時、秋元康さんはずっと「チャンスの順番というものがある」と言っていました。私の場合、それはAKB48をモチーフにした「AKB0048」というアニメのプロジェクトがスタートした時だったんです。

キャラを立てるということは、<br />居場所をつくるということ岩崎夏海(いわさき・なつみ) 1968年生まれ。東京都日野市出身。東京藝術大学建築科卒。大学卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として多くのテレビ番組の制作に参加。その後、アイドルグループAKB48のプロデュースなどにも携わる。著書に『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』など多数。

岩崎 2012年4月から放送していたアニメですね。仲谷はオーディションで、メインキャラクターを演じることに決まった。

仲谷 アニメ化の話を聞いた時、「よし、これは私の番が来た」と思いました(笑)。グループにいるうちに声優として輝くというのが目標だったので、めちゃくちゃ頑張りました。だから『もしイノ』で、それまで流されるように生きていた夢が、順番が来て自分なりの力を発揮して頑張るところはすごく共感しましたね。

岩崎 朗読はどうでした?

仲谷 ドラッカーの考えを説明している部分は、著作の引用も含めて難しいので、それをどうわかりやすく朗読するか、ということを考えましたね。

岩崎 具体的にどういう工夫をしたんですか?

仲谷 工夫というか、直球勝負なんですけど(笑)、じっくり時間をかけて読み込んで、まず自分が一番に理解しようと思いました。私はあんまり頭がよくないので、私がわかればみんなわかるかなって。文章の文節がわからなくなったら、ここが、こうだから、こうなって……と部分に区切っていったん内容を整理しました。口に出して読みながら整理するんです。その作業をしてから、収録に臨みました。

キャラを立てるということは、<br />居場所をつくるということ

岩崎 ああ、それは僕も同じようなことをしています。よく、「どうしてドラッカーの思想をそんなにわかりやすく書けるんですか?」と聞かれることがあるんだけど、それは僕がドラッカーの著作を骨の髄まで理解しようとしているからなんですよね。とことん理解すれば、文章はおのずとわかりやすく、易しくなる。仲谷はそうやって、物事に謙虚に向き合って、着実に一歩ずつ進もうとする。だからポイントだけおさえて早急に理解しようとする人よりも、ドラッカーをわかっていると思います。

仲谷 自分のわかる範囲のことしかできないですから。

岩崎 今回のオーディオブックを聞くと、セリフ部分もそうだけど、地の文もすごく納得感がありました。聞いていて、すっと入ってくる感じがした。それは、仲谷がちゃんと理解して読んでいるからなんでしょうね。これは初めて言うんだけど、仲谷のそういうところを夢のキャラクターに取り入れているんですよ。

仲谷 えー!そうだったんですか!

岩崎 だって、夢も『もしイノ』で『イノベーションと企業家精神』を読んでいる時、そうだったでしょう?わからないところはわからないと素直に認めて、着実に理解しようとする。

仲谷 夢は私だったのか……。それを知ってから読むと、また新しい発見がありそうです。(後編へ続く)

キャラを立てるということは、<br />居場所をつくるということ